最新記事

インドネシア

激しい剣幕で閣僚に猛省促す大統領の意図は? 新型コロナ対策後手のインドネシア

2020年6月30日(火)20時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

動画公開、大統領の意図は

公開された閣議でのジョコ・ウィドド大統領の演説は、政府の感染対策に不満を抱いて一刻も早い規制や制限の「全面解除」を求める国民に対して大きなインパクトを与える効果を狙った、との見方が有力だ。

あまり例のない閣議の動画公開、激しい口調ながらも手にした原稿を見ながらのジョコ・ウィドド大統領の演説には「パフォーマンス」としての側面もあり、一向に収まらないコロナ感染拡大の現状に「大統領は閣僚と思いを一つにしてここまで懸命に、真剣に取り組もうとしている」というメッセージを国民に伝えることが眼目だったとみられている。

また29日付けの主要紙「コンパス」は、政策研究機関の政治評論家ブルハヌディン・ムフタディ氏による「この演説はジョコ・ウィドド大統領が思い描いている内閣改造を断行するための下地ならしである」との見方を伝えた。

第2期政権への批判で内閣改造も?

同氏はさらに「動画公開はその内閣改造への国民の反応をみる観測気球のようなものともいえるだろう」として、今後タイミングをみて大統領が内閣改造に踏み切る可能性に言及した。

2019年10月に発足したジョコ・ウィドド大統領第2期目の内閣は、与党各政党への大臣ポスト割り当てや国家警察、国軍の元高級幹部を多く登用したり、若干35歳の若手ビジネスマンを抜擢したりするなど話題満載だったが、各閣僚の政権発足後の実績という点では国会やマスコミから辛口評価の閣僚が少なからず含まれているのも事実。

そこへ降って沸いたコロナ禍だが、保健相や財務相、経済、投資関係の閣僚らがコロナ対策などで多忙を極めるのとは対照的に、コロナ対策による活動自粛や制限強化に乗じて仕事に積極性や意欲を見せない閣僚やコロナ禍以前と変わらない仕事内容、ペースの閣僚にジョコ・ウィドド大統領は内閣改造のタイミングを計っているとの観測もでていた。

そういう意味でジョコ・ウィドド大統領は今後国民やマスコミ、各政党などの反応を見極めながら内閣改造を実行することで、コロナ対策のさらなる強化徹底と評価の低い閣僚を入れ替えて政権基盤を強化するという「一石二鳥」を視野に入れているものとの見方が有力になっている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など


【関連記事】
・東京都、新型コロナウイルス新規感染58人を確認 週平均で休業再要請の50人超える
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・今年は海やプールで泳いでもいいのか?──検証
・韓国、日本製品不買運動はどこへ? ニンテンドー「どうぶつの森」大ヒットが示すご都合主義.


20200707issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年7月7日号(6月30日発売)は「Black Lives Matter」特集。今回の黒人差別反対運動はいつもと違う――。黒人社会の慟哭、抗議拡大の理由、警察vs黒人の暗黒史。「人権軽視大国」アメリカがついに変わるのか。特別寄稿ウェスリー・ラウリー(ピュリツァー賞受賞ジャーナリスト)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

10月FOMC、意見分裂鮮明に 12月緩和不支持も

ビジネス

エヌビディア、売上高見通しが予想上回る 株価2%高

ワールド

ゼレンスキー氏、トルコの和平仲介に期待 エルドアン

ワールド

EXCLUSIVE-米、ウクライナに領土割譲含む紛
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、完成した「信じられない」大失敗ヘアにSNS爆笑
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 7
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 8
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中