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アメリカ社会

なぜ黒人の犠牲者が多いのか 米警察のスタンガン使用に疑問符

2020年6月21日(日)20時15分

「尻に食らわせろ」

2017年7月、ある暑い日のことだった。ユーリ・マーティンさん(58)は水を飲みたいと思っていた。誕生日に12マイル(約19キロ)以上も歩いて親戚の家を訪れたマーティンさんは、ジョージア州中部にある人口約130人の街ディープステップで、ある家主に飲み水を求めた。相手は彼の願いを拒否し、追い払うために警察を呼んだ。地方検事によれば、マーティンさんは「黒人」と通報されている。

ワシントン郡の保安官代理が現場に到着し、道端を歩いていたマーティンさんに声をかけた。統合失調症の症状のあるマーティンさんは呼びかけを無視し、歩き続けた。保安官代理は応援を呼んだ。

地方検事によれば、保安官代理らは、マーティンさんが両手を後ろに回すよう求める指示を無視して「身構え」「拳を固めた」と供述したという。彼らの車両のダッシュボードに取り付けられたカメラの映像によれば、ある保安官代理が別の1人に向かって「尻に食らわせてやれ」と告げている。

保安官代理がテーザー銃を発射すると、マーティンさんは地面に倒れたが、腕に刺さったテーザー銃の電極針を抜き、徒歩で遠ざかった。3人目の保安官代理が到着し、自分のテーザー銃をマーティンさんの背中に向けて発射すると、彼は倒れた。

保安官代理らはうつ伏せに倒れたマーティンさんを囲み、体重をかけて押さえつけ、マーティンさんに対してテーザー銃を15回作動させた。マーティンさんが苦痛に満ちた声で「殺される」と叫んでいるのが聞き取れる。検視報告書によれば、彼は拘束中に不整脈が原因で死亡した。

マーティンさんの遺族の弁護士を務めるマウリ・デイビス氏は、「彼は『ウォーキング・ホワイル・ブラック』に描かれる状況の犠牲者だ」と語る。保安官代理らは告発された後に解雇されたが、テーザー銃使用の訓練に沿って行動したと述べている。

昨年11月、マーティンさんの死をめぐる殺人容疑の裁判が始まる数週間前、裁判官は保安官代理3人(すべて白人)に対し刑事免責を認めた。

アクソンは各警察に配布したガイドラインのなかで、同時に複数のテーザー銃を使わないよう警告している。法執行の専門家によれば、スタンガンを繰り返し作動させる、また継続して使うことは死亡リスクを増大させるので避けるべきという。

ワシントン郡保安官事務所に複数回にわたりコメントを求めたが回答は得られなかった。

裁判官は、保安官代理らの行為は正当防衛であり、テーザー銃の使用は「正当」であり「当該の状況のもとでは合理的」だったと判断した。裁判官はジョージア州の「スタンド・ユア・グラウンド(正当防衛)法」を引用しつつ、あらゆる人は「死または深刻な負傷」から身を守るために合理的な範囲で実力行使する権利を有する、としている。

地方検事はこの判決に対して控訴し、8月に州最高裁で審理が行われる予定になっている。州最高裁が下級審の判決を覆せば、保安官代理らに対する殺人容疑での裁判が復活する。

マーティンさんの姉であるヘレン・ギルバートさんは、「彼はジョージアの太陽に照りつけられて、水を求めたせいで命を落とした」と言う。「常識のある人なら、彼が死に値するようなことを何もしていないことが分かるだろう。正義を求める長い歩みが終わるまで、安らぎは得られない」


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