最新記事

アメリカ社会

なぜ黒人の犠牲者が多いのか 米警察のスタンガン使用に疑問符

2020年6月21日(日)20時15分

訴追もされぬままのタコマの事件

テーザー銃絡みの死亡例は、通常ほとんど社会的な注目を集めないし、テーザー銃の使用頻度やその使用が死につながった件数を調査している政府機関もない。テーザー銃と死因との関わりを評価する際の基準も、検視官や監察医によってさまざまだ。警察によるテーザー銃の使用を規制する全国統一基準も存在しない。

2009年末にはテーザー銃が心臓に与えるリスクの証拠が集まったことで、製造元のアクソンは重大な方針変更を行い、警察に対し、相手の胸部を狙ってテーザー銃の電極針を発射しないよう警告した。

だが3月3日のワシントン州タコマでは、この警告が守られなかった。

新たに公表された映像、音声記録には、タコマの警察官が「息ができない」と叫ぶ黒人の男性にテーザー銃を用い、殴打する様子が残されている。3月25日、ミネアポリスで白人警官に膝で首を圧迫されたジョージ・フロイドさんの必死の叫びとそっくりだ。

警察は、マニュエル・エリスさん(33)が誰も乗っていない車のドアを開けようとしているのを発見したところ、彼がパトカーと2人の警察官に攻撃を加えてきたと述べている。遺族の弁護士によれば、エリスさんがコンビニエンスストアから自宅に徒歩で戻る途中、警官ともめごとが生じたという。

検視報告書によれば、警官はエリスさんの胸部に向けてテーザー銃を発射した後、彼に手錠をかけ、足をキャンバス製のストラップで縛ったという。エリスさんは意識を失っており、蘇生の試みは成功しなかった。検視官はこの件は殺人であると判断した。検視報告書では、死因として、身体拘束の結果として生じた低酸素症による呼吸停止を挙げている。

事件の映像が公表されたことで、タコマでは6月5日、エリスさんの死に対する抗議行動が発生した。ワシントン州知事は新たな調査を求め、タコマ市長は、事件に関与した警察官4人の免職・訴追を求めた。警察官のうち2人は白人、1人は黒人、もう1人はアジア系である。彼らは休職扱いとなっているが、まだ訴追はされていない。

警察官の1人、クリストファー・バーバンク氏はコメントを拒否している。ロイターでは他の3人とも連絡を取ろうとしたが、うまくいかなかった。タコマ警察署は、郡・州の調査担当者に協力していると話している。


Linda So(翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【関連記事】
・木に吊るされた黒人男性の遺体、4件目──苦しい自殺説
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・自殺かリンチか、差別に怒るアメリカで木に吊るされた黒人の遺体発見が相次ぐ
・街に繰り出したカワウソの受難 高級魚アロワナを食べたら...


20200623issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年6月23日号(6月16日発売)は「コロナ時代の個人情報」特集。各国で採用が進む「スマホで接触追跡・感染監視」システムの是非。第2波を防ぐため、プライバシーは諦めるべきなのか。コロナ危機はまだ終わっていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ロシア財務省、石油価格連動の積立制度復活へ 基準価

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

現代自、米国生産を拡大へ 関税影響で利益率目標引き

ワールド

仏で緊縮財政抗議で大規模スト、80万人参加か 学校
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中