最新記事

アメリカ社会

なぜ黒人の犠牲者が多いのか 米警察のスタンガン使用に疑問符

2020年6月21日(日)20時15分

メーカーは拘束した相手への使用を禁止

近年テーザー銃が誤用された例をみると、この武器をめぐるリスクや混乱が浮き彫りになっている。

ミネアポリスにおけるジョージ・フロイドさんの死亡をめぐる抗議が全米に広がった5月30日、アトランタの2人の大学生、タニヤ・ピルグリムさん(20)、メサイア・ヤングさん(22)は食品を購入するために外出し、抗議行動に伴う交通渋滞に巻き込まれた。

小型カメラの映像によれば、警官の1人が運転手側のサイドウィンドウを警棒で繰り返し叩き、別の警官がテーザー銃を使ってピルグリムさんに電撃を与えている。黒人学生2人を車から引きずり出す際に、3人目の警官がヤングさんに対してテーザー銃を使っている。

警官が2人に電撃を与えている動画は、全国的な批判を引き起こした。翌日、アトランタ警察のエリカ・シールズ署長は記者会見で謝罪した。「1つの機関として、また個人として私たちの振る舞いは許容できないものだった」と語った。ヤングさんは病院で治療を受けたが、傷口を縫う必要があった。13日、ブルックスさん死亡事件を受けてシールズ署長は辞任した。

5月30日の事件の後、ある警察官は報告書のなかで、学生たちが武器を所持しているか確認できなかったためテーザー銃を使用したと書いている。テーザー銃の製造元であるアクソン・エンタープライズは、各警察に配布しているガイドラインのなかで、運転中の人または拘束された人に対してテーザー銃を使用すべきではないと警告している。また法執行の専門家によれば、一般に、車内にいるなど身動きの取れない人に対してテーザー銃を使用すべきではないという。

この事件に関与した警察官6人(そのうち5人が黒人で1人が白人)は、過剰な暴力を振るったとして告発された。うち4人が免職処分となり、2人が処分取り消しを求めて市長・警察署長を訴えている。この2人の警察官の弁護士は、免職は政治的な動機に基づいたものだと確信していると述べている。

オークランド警察署でテーザー銃導入計画を担当した退役警官マイケル・レオネジオ氏は「警察が問うべきことは、『私はテーザー銃を使えるか』ではなく、『私はテーザー銃を使うべきか』だ」と語る。同氏はアクソンを相手取った不法死亡訴訟において専門家として証言を行っている。「テーザー銃は危険な武器だ」とレオネジオ氏は言う。「使用されることが増えれば、それだけ命を落とす人も増える」

アクソンは、自社が製造する武器について、リスクがゼロではないが、警棒やゴム弾などと比べても安全であると述べている。同社はロイターに送付したメールのなかで、「状況にかかわらず、命が失われることは悲劇だ。だからこそ私たちは、今も警官とコミュニティ双方を守るための技術開発と訓練に力を注いでいる」としている。


【関連記事】
・木に吊るされた黒人男性の遺体、4件目──苦しい自殺説
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・自殺かリンチか、差別に怒るアメリカで木に吊るされた黒人の遺体発見が相次ぐ
・街に繰り出したカワウソの受難 高級魚アロワナを食べたら...

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

林氏が政策公表、物価上昇緩やかにし1%程度の実質賃

ビジネス

午後3時のドルは147円前半へ上昇、米FOMC後の

ビジネス

パナソニック、アノードフリー技術で高容量EV電池の

ワールド

米農務長官、関税収入による農家支援を示唆=FT
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中