最新記事

アメリカ社会

「他国に厳しく自国に甘い」人権軽視大国アメリカよ、今こそ変わるとき

America the Unexceptional

2020年6月16日(火)18時30分
デービッド・ケイ(カリフォルニア大学アーバイン校法学部教授)

ホワイトハウス周辺の通りの一部を「ブラック・ライブズ・マター」に改名 JIM BOURG-REUTERS

<「Black Lives Matter」をスローガンとする抗議デモが求めるのは、他国の人権侵害にはうるさいが国内の人種差別を放置してきたこの国の「例外」が終わること>

アメリカは建国以来、自らを「丘の上の光り輝く町」になぞらえてきた。自由と解放の精神に満ち、他の国の模範となる国という意味合いだ。

アメリカ史に照らせば、全くの神話でしかない。とりわけ今は、それがよく分かる。

黒人を死に至らしめても罪に問われないケースがなくならず、国民生活のあらゆる場面で構造的な人種差別がはびこる現状。「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命を軽んじるな)」をスローガンとするデモ隊を全米で警官隊や州兵が暴力で制圧している事実。どれも、アメリカを特別視するこの神話がいかに空虚であるかを改めて示している。

それでも多くの人が、アメリカは模範的で特別な国家だという「アメリカ例外主義」を受け入れている。「光り輝く町」が神話的な例えにすぎないと考える人々までも、アメリカは人権擁護について世界で積極的な役割を果たしてきたと主張しかねない。

確かにアメリカには、第2次大戦後の世界的な人権制度の樹立に貢献し、人権の尊重を究極の目的とする国連憲章の交渉を主導した実績がある。

1948年に世界人権宣言が起草されたとき、国連人権委員会の委員長を務めていたのは、元ファーストレディーのエレノア・ルーズベルトだった。人権擁護政策は少なくともジミー・カーター政権の頃からアメリカ外交の重要課題とされるようになり、多くの大統領が(一貫性を欠いていたにせよ)その追求に力を注いできた。

それでもアメリカの政策で追求される「人権」とは、あくまで他国民が侵害しているものであり、米政府が国内で守るべきものとして受け取られることはほとんどない。アメリカは他国が少数派を弾圧したりデモ隊に暴力を振るったときには、人権関連の法律を持ち出して非難する。しかし同じ基準が自国に当てはめられると、アメリカはいら立ちをあらわにする。

自国にだけは甘い理由

対外的には美しい言葉を並べ立て、時に指導力を示すことはあっても、アメリカは国内では人権問題を軽視してきた。他国に条約や国際的な責務を守るよう要求していながら、自国では同じことを実行していなかった。

外交政策の柱にするほど人権問題を重視するのに、なぜ米政府は自らにその基準を当てはめないのか。答えは簡単だ。歴史を見れば分かる。米社会に根差す人種差別と白人至上主義が、人権擁護の取り組みを阻んできたのだ。

現代の人権擁護運動が始まった当初、南部の人種隔離主義者とその支持者は、アメリカが国連の人権制度に関与することに反対した。国連の人権機関が権限を持つことで、アメリカの構造的な人種差別を終わらせろと圧力をかけてくることを懸念したのだ。そのためアメリカがいくつかの人権条約を批准すると、連邦上院は法制化の手続きを経ない限り、条約を国内の法廷には適用しないよう要求した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中