最新記事

「犬は訓練を受けなくても苦しんでいる飼い主を救おうとする」との研究結果

2020年6月5日(金)17時30分
松岡由希子

OlenaKlymenok -iStock

<アリゾナ州立大学の研究チームは、犬60匹とその飼い主を対象に、犬が飼い主を助けようとするのかを検証した......>

「名犬ラッシー」やアニメ映画「ボルト」など、犬と飼い主との絆を描いた作品は世界中で親しまれているが、犬が「飼い主を助けたい」と思っているのかどうかについては、これまでほとんど解明されていない。

米アリゾナ州立大学(ASU)の研究チームは、犬60匹とその飼い主を対象に、犬が飼い主を助けようとするのかを検証し、2020年4月16日、その研究成果をオープンアクセスジャーナル「プロスワン」で発表した。

多くの犬は、訓練を受けていなくても、苦しんでいる人々を救おうとする

研究チームは、飼い主に大きな箱の中に入ってもらい、飼い主が「助けて」と叫ぶ場合、ご褒美のドッグフードも一緒に箱の中に入っている場合、飼い主が雑誌を朗読している場合の3つのパターンにおいて、飼い主が入っている箱を犬が開けるのか、観察した。なお、いずれの犬も、人を救助する特殊な訓練を受けた経験はない。

Van Bourg Dog Rescue Study


箱の中に入った飼い主は、事前のレクチャーで指示されたとおり、犬の名前は呼ばずに、迫真の演技で「助けて」と犬に呼びかけた。その結果、犬60匹のうち20匹が箱を開けることに成功した。

研究チームでは、犬が箱を開ける動機についてさらに詳しく調べるため、飼い主が入っている箱の中にドッグフードを入れて、犬の反応を観察した。箱を開けてドッグフードを得た犬は19匹で、そのうち16匹は、飼い主が「助けて」と呼びかけたときも箱を開けた。

研究論文の筆頭著者で、アリゾナ州立大学の修士課程に在籍するジョシュア・ファン・ブール氏は、「箱の中にドッグフードが置かれていても3分の2の犬が箱を開けなかったということは、飼い主の救助には、その動機だけでなく、その手段を知っている必要があることを示唆している」と指摘している。

また、研究チームは、箱の中にいる飼い主の声のトーンで、犬の反応に違いがあるのかについても調べた。飼い主が箱の中で穏やかに朗読しているとき、箱を開けたのは60匹中16匹にとどまった。「助けて」と呼びかけたときよりも箱を開けた犬の数が少なかったことから、犬が箱を開けるのは、単に飼い主の近くにいたいから、という動機によるものではないと推測されている。

飼い主から犬へストレスが伝達するのではないか

研究チームでは、一連の実験において、犬がストレスを感じるときの行動もモニタリングした。その結果、飼い主が「助けて」と呼びかけたとき、鼻を鳴らしたり、歩き回ったり、吠えたり、あくびをしたりと、ストレスを感じている行動が最も多く確認された。ファン・ブール氏は、この現象を「感情の伝染」と表現し、飼い主から犬へストレスが伝達するのではないかと考察している。

研究論文の責任著者であるアリゾナ州立大学のクライブ・ウイン教授は、「一連の研究成果で最もすばらしいのは、犬が本当に人に気をかけていることを示した点だ。多くの犬は、訓練を受けていなくても、苦しんでいる人々を救おうとし、助けることができなければ、動揺することがわかった」と述べている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中ロ首脳、中東情勢巡り近く電話会談へ=ロシア大統領

ビジネス

米輸入物価、5月は前月比横ばい エネルギー製品の低

ワールド

支援物資待つガザ住民59人死亡、イスラエル軍戦車が

ビジネス

米5月小売売上高‐0.9%、4カ月ぶりの大幅減 自
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 3
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火...世界遺産の火山がもたらした被害は?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 8
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 9
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 10
    【クイズ】「熱中症」は英語で何という?
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中