最新記事

台湾

コロナ危機が示した台湾の生き残り戦略

How Taiwan Can Turn Coronavirus Victory into Economic Success

2020年6月4日(木)18時40分
エドワード・ファイゲンバウム(カーネギー国際平和財団・研究担当副代表)、ジェレミー・スミス(同ジュニア・フェロー)

コロナ対応で得た評価と信用は、中国に対抗する上でも大きな力になる。写真はマスク姿で軍事演習を視察する蔡総統 Ann Wang-REUTERS

<サプライチェーンの「脱中国化」が進む今なら、中国にない透明性と信用を武器に、バイオ医療などの先端分野で確固たる地歩を築ける>

台湾は新型コロナウイルスのパンデミックへの迅速かつ高度に効率的な対応で世界から高い評価を受けた。6月1日時点で、台湾(人口2400万人)の確認感染者は443人、死者は7人にすぎない。プロ野球の試合も観客を入れて行われている。中国との人の往来が活発な台湾は感染が大きく広がると予測されていたが、見事に封じ込めに成功した。

成功のカギは、公共・民間部門の効率的な連携と技術の革新的な活用だ。これはそのまま、今後数十年にわたる着実な経済成長のレシピともなる。

もちろん2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の流行を教訓にしたことも成功の1因だ。しかし最大の要因は、人工知能(AI)とビッグデータの解析技術をフル活用したこと。それによって医療保険データと出入国管理データを統合でき、インバウンドの旅行者の感染リスクを正確に評価できた。加えて、スマートフォンのアプリ活用による濃厚接触者の追跡と強制隔離も封じ込めに威力を発揮した。

「5プラス2」計画

技術を強みにパンデミックの第1波を乗り越えた台湾だが、次なる課題は、この強みをコロナ後の経済成長と国際競争力の強化にどう生かすかだ。パンデミックを契機に、各国の政府と企業の公衆衛生に対する認識が変わり、不可欠な財とサービスのリストも変わった。賢明な投資戦略と経済政策を採用すれば、台湾はバイオ医療と製薬の分野で地域のリーダーになれる可能性がある。

中国は今後、国際社会において台湾を孤立させる戦略をさらに強引に進め、台湾経済への締め付けも強めるだろう。そのため先端技術を中心としたソフトパワーの強化は、台湾の生き残りを賭けた課題ともなる。

蔡英文(ツァイ・インウェン)総統率いる台湾政府は、バイオ医療を柱の1つに据えた「5プラス2産業イノベーション政策」を打ち出している。AI、再生可能エネルギー、ハイテク農業なども重点分野に含まれ、この計画の一環として、政府はバイオ医療の研究開発や付加価値の高い医薬品産業などへのテコ入れを進めている。

<参考記事>台湾と中国、コロナが浮き彫りにした2つの「中国語政権」の実像
<参考記事>日本・台湾・香港の「コロナ成績表」──感染爆発が起きていないのはなぜ?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

オランダ企業年金が確定拠出型へ移行、長期債市場に重

ワールド

シリア前政権犠牲者の集団墓地、ロイター報道後に暫定

ワールド

トランプ氏、ベネズエラ麻薬積載拠点を攻撃と表明 初

ワールド

韓国電池材料L&F、テスラとの契約額大幅引き下げ 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 7
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中