最新記事

サイバー攻撃

メルケル首相「正直、苦痛だ」......相次ぐロシアのサイバー攻撃にEUが制裁

2020年6月5日(金)16時00分
モーゲンスタン陽子

ロシアによる度々のハッキングに「見過ごすわけにはいかない」と宣言 REUTERS/Axel Schmidt

<先月、メルケルの電子メールアカウントにロシアのスパイがアクセスしたことが発覚。相次ぐロシアのハッキングにEUの新サイバー制裁制度の適用が検討された......>

3日、ブリュッセルでの会合で、先月明るみに出たロシアによるドイツ連邦議会ハッキングに対するEUの新サイバー制裁制度の適用が検討された。新型コロナ対策措置の接触制限が3月から続いていたが、初めての対面会議となった。

参加外交官によるとドイツは、EU制裁システムを発動し、ロシア軍事情報局長とそのスパイの欧州内移動禁止と資産凍結を求めている(ポリティコ)。EU加盟国がサイバー攻撃に関与する個人に制裁を加えられるようにする昨年5月に誕生したシステムだが、実際に発動されたことはまだない。全加盟国の承認が必要だが、今年後半に制裁が実現すれば、長期にわたるEUのサイバー攻撃対策の大きな転換期となりそうだ。

ロシアのスパイが、メルケルの電子メールアカウントにアクセス

ドイツのメルケル首相は先月13日、ロシアによるドイツ連邦議会および自身に対する「言語道断な」ハッキング行為の「確固たる証拠」を入手、国としてこれを「見過ごすわけにはいかない」と宣言し、EUに協力を求めた。「毎日ロシアとのより良い協力関係を築こうと努力する一方で、ロシア軍がこのような行為に関わっている確かな証拠があることを知る。正直、苦痛だ」と、憤りを露にした。

ドイツ各紙が報じたところによると、首相は2015年5月8日、第二次世界大戦終結70周年の記念式典に各国から大使などゲストを招待した。その中に紛れ込んだロシアのスパイが、メルケルの電子メールアカウントおよび連邦議会の情報にアクセスしたという。

この人物はディミトリー・バディン(29)と伝えられており、2016年の米大統領選で民主党に対しサイバー攻撃を仕掛けた容疑でFBIから指名されている人物と同一と見られている。バディンが2015年当時GRU(ロシア軍事諜報局)内のAPT 28またはファンシーベアとして知られるハッカーグループのメンバーであった確かな証拠があがったため、ドイツ検察は先週バディンの逮捕状を発行した。

dmitriy-sergeyevich-badin.jpg

FBIから指名されているディミトリー・バディン

どのようなデータが盗まれたのは不明だが、事件の象徴するものは大きい。ベルリンのシンクタンク「財団 新責任」の研究員ユリア・シェッツェは「これはメルケル首相にとって重要なことだ。彼女自身影響を受け、他の多くの議員も影響を受けた」とポリティコに語っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

川崎重社長、防衛事業の売上高見通し上振れ 高市政権

ワールド

米16州、EV充電施設の助成金停止で連邦政府を提訴

ワールド

中国最新空母「福建」、台湾海峡を初めて通過=台湾国

ワールド

ウクライナ安全保証、西側部隊のロシア軍撃退あり得る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 7
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中