最新記事

人種問題

インドネシア、国家反逆容疑パプア人に禁固11カ月の判決 求刑17年がなぜ?

2020年6月19日(金)20時08分
大塚智彦(PanAsiaNews)

判決当日は支援者らが裁判所の前で無条件での釈放を求める抗議活動を行った。 REUTERS

<マイノリティに対する差別への抗議が世界的な潮流となるなか、東南アジアの大国では......>

インドネシアの東カリマンタン州バリクパパンの地方裁判所は6月17日、人種差別反対のデモなどに参加していて国家反逆罪に問われていたパプア人被告7人に対して禁固10カ月から11カ月の判決を言い渡した。同裁判では検察側が7被告に対して禁固5年~17年をそれぞれ求刑していたが、裁判官は全被告に対し求刑を大幅に下回る軽い判決を下した。

7被告の裁判を支援するとともに無罪判決での即時釈放を求めていた支援団体やパプア人組織は「無罪ではないものの極めて軽い有罪判決」に戸惑いながらも前向きの評価をする一方で「軽い実刑とはいえ有罪はやはりおかしい、無罪とするべきだ」との反発も出ており、検察側求刑よりかなり軽い判決の意図を巡って様々な観測が飛び交う事態ともなっている。

遠隔地でオンライン判決公判

2019年8月17日にジャワ島東部スラバヤ市内のパプア人大学生寮から偽情報に基づいて警察がパプア人大学生を連行する際に周辺住民や警察官などから「サル」「ブタ」など差別用語が投げかけられ、インターネットを通じてそれが瞬時に全土に拡散。以後、各地で「パプア人への差別反対」のデモや集会が起きる事態となった。

なかでもパプア州ではパプア人学生を中心に「差別反対」運動が、長年の念願である「独立の是非を問う住民投票実施」運動に変質。政治的デモが治安問題になっていき、デモ隊が警察や軍と衝突。ワメナなどでは一部でデモが暴動に発展して約40人が死亡する事態となった。

こうしたなか、学生組織や運動団体の指導者、幹部などだった7人の被告はデモを組織、扇動したとして「国家反逆罪」に問われ、逮捕されたのだ。

起訴後の裁判は「公判維持のためという治安上の理由」として7被告が逮捕されたパプア州から西に約2400キロも離れた東カリマンタン州のバリクパパンに移されて2020年2月から公判が続いていた。

17日の判決公判も折からの新型コロナウイルスの感染拡大防止策からオンラインで開廷され、その様子はネットを通じて公開された。

検察側が最も重い禁固17年を求刑した独立解放組織の指導者ブフタル・タブニ被告は判決で禁固11カ月となり、残る6被告も求刑は5年〜15年の禁固刑だったが、いずれも禁固10カ月と11カ月の判決となった。

今後、判決が確定すれば、7被告はすでに逮捕以来約9カ月間拘束されていることから未決拘留期間を算入するとあと1、2カ月で釈放されることになるという。


【話題の記事】
・東京都、新型コロナウイルス新規感染41人 6月の感染合計440人に
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・感染者・死者ともにASEAN最悪に インドネシア、新型コロナ感染拡大しても規制緩和の愚策
・街に繰り出したカワウソの受難 高級魚アロワナを食べたら...

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米中分断、世界成長に打撃へ 長期的にGDP7%減も

ワールド

ハマス、武装解除コミットできず ガザ治安管理を当面

ワールド

トランプ氏、ウクライナ大統領と会談 トマホーク供与

ビジネス

米セントルイス連銀総裁、雇用にリスクなら今月の追加
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 2
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 5
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 6
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 7
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 8
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体…
  • 9
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 10
    ビーチを楽しむ観光客のもとにサメの大群...ショッキ…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 4
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 5
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中