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インドネシア、国家反逆容疑パプア人に禁固11カ月の判決 求刑17年がなぜ?

2020年6月19日(金)20時08分
大塚智彦(PanAsiaNews)

こうしたことから被告側は「判決を受け入れて残る短期間で自由の身となるか、あくまで無罪を求めて控訴するか」という難しい選択を迫られている。

被告側の弁護士は判決から7日以内とされている控訴に関しては「控訴するかどうかはまだ決めていない、7被告とよく話し合いたい」と地元メディアに明らかにしている。

タブニ被告は判決に対して「ありがとうございます。無罪判決と同じくらいうれしい気持ちだが、よく内容を吟味したい」と話している。それというのも禁固刑の期間は極めて短期になったものの、判決では7被告の「国家反逆罪」そのものは罪状として認定されているからである。

大学での裁判批判集会への参加者拘束・尋問

こうしたなか、17日の判決を前にして裁判の不当性と7人の即時釈放を求める集会が6月15日にパプア州の州都ジャヤプラにある「ジャヤプラ科学技術大学」で開かれ、同大学の学生活動家4人が地元警察に強制連行される事態も起きた。

現地からの報道などによると、15日の集会で7被告に対する裁判の進め方などを批判していた4人が警察署に連行されて、尋問を受け、同日夜には釈放された。

ジャヤプラ警察は「なにかの事件に関係した容疑者や証人としてではなく、あくまで大学当局の要請に基づいて事実関係の確認のために同行して尋問しただけであり、逮捕ではないし穏やかに話をしただけである」と強制連行や暴力を否定している。

しかし釈放された学生らはメディアに対して「有無を言わせぬ連行で逮捕といわれ、尋問中は暴力も受けた」と訴えており、警察の主張と食い違いをみせている。

「#パプア人の命は大切だ」運動

米国で警察官による過剰制圧で黒人男性が死亡した事件をきっかけに全米に拡大している抗議デモ。ネット上では「#黒人の命は大切だ」のハッシュタグで拡散し国際的な共感を得るなか、インドネシアでも「#パプア人の命は大切だ」というハッシュタグとともに、パプア人差別問題への関心がパプア人やインドネシア人大学生などの間で高まっている(関連記事「「#パプア人の命は大切だ」 インドネシア、米黒人暴行死デモに触発される先住民差別」)。

そうした雰囲気のなかで17日の判決に向けて各地で討論会や支持の集会・デモが計画されていたが、スマトラ州南部ランプン州では7被告支援セミナーを企画していたランプン大学学生新聞スタッフに脅迫状が届く事件が発生。セミナー参加者が無言電話やネット上で脅迫されるなどの妨害工作が続き、最終的にセミナーが中止に追い込まれてしまった。


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