最新記事

中国

米中どちらに軍配?WHO総会で習近平スピーチ、トランプ警告書簡

2020年5月22日(金)15時55分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

全人代開催に当たっても、実は中国内における習近平の立場は弱い。

1月24日付コラム<新型コロナウイルス肺炎、習近平の指示はなぜ遅れたのか?>や2月10日のコラム<新型肺炎以来、なぜ李克強が習近平より目立つのか?>あるいは3月18日付けコラム<中国はなぜコロナ大拡散から抜け出せたのか?>、特に5月2日付けコラム<全人代開幕日決定から何が見えるか?>で書いたように、習近平の中国国内における立場は非常に「分が悪い」のである。

だから中国政府に批判的な民主活動家の言論を封殺すべく、中国はつぎつぎに活動家を拘束している。人民の意見が怖いのだ。

そのため、WHOで習近平が際立った形でスピーチをしたことを、実は中国人民にも見せたい。「ほらね、私が言ってきた『人類運命共同体』という外交戦略は正しかったでしょ?私は偉大でしょ?」と人民に見せつけたいのである。

そして、もちろんのこと、5月14日付けコラム<感染者急増するロシアはコロナ対中包囲網にどう対応するか_モスクワ便り>に書いたように日本円で「1京(けい)円」を超えるコロナに関する損害賠償を世界8か国の関連団体から請求されているので、何としても国際世論を中国側に有利なように惹きつけておきたいのだ。

30日以内に改善しないと拠出金を停止しWHOを脱退すると示唆したトランプの書簡

トランプはWHO総会開催に際し、テドロス宛に書簡を出している。その骨子は

 ●あなた(テドロス)とWHOによる度重なる失敗が、世界に極めて大きな代償を支払わせたことは明らかだ。

 ●前進できる唯一の方法は、中国から独立した姿を示すことだ。

 ●WHOとして今後30日以内に、実質的な改善に取り組まなければ、アメリカは資金拠出を恒久的に停止し、加盟を再検討する。

最後の「加盟を再検討する」は「脱退する」と言ったに等しい。

これはアメリカに有利に働くだろうか?

WHO参加国の多くを占める発展途上国は、「発展途上国を支援してくれる国」を応援するだろう。残念ながら、それは「人類運命共同体」を主張し、発展途上国を支援するために20億ドルを支出すると宣言した「中国」だということになる。

その意味で、トランプのこの「金による脅し作戦」は今後の世界覇権という意味で、賢明ではない。もっと戦略的でなければアメリカが損をする。

トランプが中国とWHOの責任を追及する主張は実に正しい。

1月31日のコラム<習近平とWHO事務局長の「仲」が人類に危機をもたらす>に書いたように悪いのは習近平の保身であり、エチオピア人であるテドロスの習近平への忖度だ(エチオピアへの最大投資国は中国)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米小売売上高、5月ー0.9%で予想以上の減少 コア

ビジネス

日産、3代目「リーフ」を米で今秋発売 航続距離など

ワールド

ロシア安保高官が今月2回目の訪朝、金総書記と会談 

ビジネス

アングル:日銀、経済下押しの程度を注視 年内利上げ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染みだが、彼らは代わりにどの絵文字を使っている?
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 6
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 7
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 8
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 9
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 10
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 3
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中