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再送-〔アングル〕日銀、経済下押しの程度を注視 年内利上げ排除せずとの声も

2025年06月18日(水)09時35分

日銀の植田和男総裁は17日、基調的物価上昇率が加速感をもって上がっている状況にないとして、利上げ判断の前に米関税の影響が表れるハードデータを確認する考えを示した。写真は記者会見する植田総裁。5月撮影。(2025年 ロイター/Kim Kyung-Hoon/File Photo)

(この記事は17日午後8時27分に配信しました。)

Takahiko Wada

[東京 17日 ロイター] - 日銀の植田和男総裁は17日、基調的物価上昇率が加速感をもって上がっている状況にないとして、利上げ判断の前に米関税の影響が表れるハードデータを確認する考えを示した。データが出てくるのは7月以降となるが、日銀は経済下押しの程度に加え、足元で上振れ気味に推移する物価が基調物価にどう反映されるかも注視している。米関税をめぐる不確実性の後退や、賃金と物価の好循環が維持できると判断できれば、年内の利上げも排除されないとみる向きもある。

<利上げ判断の前段階>

植田総裁は17日の会見で、米関税を巡るハードデータはまだ悪くなっていないとし、悪いデータが良くなっていく過程のどこかで利上げを検討するかという質問に「まだその手前にある」と語った。経済・物価ともに「下振れリスクの方が大きい」と指摘、足元の物価上昇などで実質金利のマイナス幅が深まっているが、政策がビハインド・ザ・カーブとなる(後手に回る)状況にはないとした。

食品価格高騰に続き、足元では中東情勢が緊迫化し、原油先物が急上昇している。植田総裁は、食品や原油の上昇が続けば期待インフレや基調的な物価上昇率に「二次的な影響を与えるリスクがある」と述べる一方、通商政策の影響が出てきて製造業の企業収益が低下に向かうことで「コストカット型の価格・賃金設定を復活させるリスクも無視できない」と指摘。上下双方のリスク要因を注意深く見ていく姿勢を示した。

<焦点は関税による経済下押しの程度>

日銀内には、米関税政策を巡る不確実性を理由に様子見を続ける中で、物価上振れリスクは蓄積されるとの見方がある。基調的な物価上昇率は2%に向けてさらに歩を進めているとの声も多く、コメや食料品の価格高騰が継続することで人々のインフレ期待を押し上げれば、基調物価は目標の2%に一段と迫ることになる。

焦点は米関税の経済への下押し圧力がどの程度になるかだ。下押しが限定的なら、基調的な物価上昇率への影響も一時的になり、再び2%を目指すとの見通しの確度が高まることになる。日銀では、米国の追加関税の上乗せ分の適用がなくなり、一律10%となれば経済の減速は緩やかになって賃金にも好影響との見方が出ている。

一方で企業の収益が下押しされると、ボーナスや来年の春闘にマイナスの影響を及ぼす可能性が高まる。植田総裁は「いつになったら影響度合いがわかるかは悩ましい」としたが、日銀では3月期決算企業の上半期決算を見極めたいとの声も出ている。

賃金も含めた経済・物価見通しの実現性については、年末の冬季賞与や来年の春闘をみれば確度が増すが、日銀では冬季賞与が出てくる前でもトレンドをつかむことは可能とみている。中東情勢の不安定化もあり、先行きは依然として不透明な状況にあるが、日銀内には米国の関税を巡る不確実性が後退すれば、国内外の注目ポイントを点検した上で年内の利上げも可能との見方がある。

<市場、10月利上げの見方も>

市場では、植田総裁の会見を受けて、7月は遠のいたが10月の利上げは可能性があるとの声が聞かれる。SBI証券の道家映二チーフ債券ストラテジストは、植田総裁の発言は「想定以上にハト派な印象だった」と指摘する一方で「日銀執行部は粛々と利上げ路線を継続するのではないか」と述べた。その上で「米関税関連の問題が落ち着けば、今年10月には日銀は再度追加利上げに踏み切る可能性がある」と話す。

野村総研のエグゼクティブ・エコノミスト、木内登英氏は、自身のコラムで「利上げを再開するとしても年末か年明けといった時間軸になるのではないか」と指摘している。

ロイター
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