最新記事

中国

米中どちらに軍配?WHO総会で習近平スピーチ、トランプ警告書簡

2020年5月22日(金)15時55分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

いま全人類は習近平とWHOが防ぎきれなかったコロナの災禍で苦しんでいる。

どれだけ罪深いことをしていることか。

死を以て償っても償いきれない重罪を二人は犯したのである。

トランプはここにだけに主張の焦点を当てれば、全人類はトランプに賛同し、トランプに拍手喝采を送るだろう。

しかし彼はそうしなかった。

WHOを習近平が掌握できる方向に動いてしまったのである。そのことが残念でならない。

4月19日付のコラム<トランプ「WHO拠出金停止」、習近平「高笑い」――アフターコロナの世界新秩序を狙う中国>で書いたように、習近平の狙いは「国連およびその関連機関の乗っ取り」だ。

その習近平を喜ばせる行動に出るべきではなかっただろう。

WHOが組織する調査団に習近平は賛同

WHO総会は最終日の19日、コロナ感染症対応について、独立した検証作業の実施などをWHOに求める決議案を採択した。日本やEUなどが提出した。中国も共同提案に加わったが、アメリカは名を連ねていない。

習近平はあれだけオーストラリアが提案したコロナに関する独立調査団派遣には反対したのに、WHOが組織する調査団派遣には賛同した。

前述の5月15日付コラム<習近平、トランプにひれ伏したか?徴収した報復関税の返還命令>に書いたように、オーストラリアの提案はトランプと相談の上で成されたものであり、中国に対するコロナ損害賠償請求の線上にある。だから中国は報復としてオーストラリアからの牛肉の輸入を停止した。

しかしWHOが組織する調査団の特徴には二つある。

 ●調査の目的は「再発のリスクを減らすため」である。

 ●調査の目的は(中国が警戒する)責任追及は行わない。
 
この二つが決議案に盛り込まれていることに注目しなければならない。だから中国は賛成したのであり、アメリカは賛成しなかったのだ。

この肝心の部分を見落として、EUやロシアまでが賛成に回ったので、対中包囲網が形成されたと喜ぶのは適切ではない。

しかも調査は「感染収束後」となっている。せっかく冒頭スピーチで中国人民に良いところを見せた習近平としては、すぐに調査に入られるのでは「功績」が台無しになるし、また、感染の第二波が来るのを非常に警戒している中国としては、現在まだ感染が広がっている諸国から「ウイルスを持っている人」が入国するかもしれないのを防ぎたい思惑もあるだろう。
 
以上、長くなりすぎたので、台湾のWHO総会オブザーバー参加を許さなかったことに関しては、本日アメリカが発表した対中戦略方針と共に、別途考察したい。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

Endo_Tahara_book.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

この筆者の記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪経済見通し、現時点でバランス取れている=中銀総裁

ワールド

原油先物横ばい、前日の上昇維持 ロシア製油所攻撃受

ワールド

クックFRB理事の解任認めず、米控訴裁が地裁判断支

ワールド

スウェーデン防衛費、対GDP比2.8%に拡大へ 2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中