最新記事

コロナデモ

ドイツで抗議デモ急増、陰謀論者と反ワクチン主義者が警察とジャーナリストを攻撃

2020年5月15日(金)16時50分
モーゲンスタン陽子

CDUのパウル・ズィーミアク事務局長はアウグスブルガー・アルゲマイネ紙に「コロナ危機を反民主主義プロパガンダのプラットフォームとして過激派に利用させはしない」と語っている。また、ハイコ・マース外相は「ジャーナリストを攻撃するものは私たちの民主主義をも攻撃している」とツイートしている。

チューリンゲンでは、昨年の選挙で極右政党AfDの力を借り一時的に州知事となったFDP党首のトーマス・ケンメリッヒが週末、マスクをつけずにデモに参加。イメージダウンを恐れた党内から党首を退くよう声が上がっている。

反ワクチン主義は「世界の健康に対する脅威」WHO

土曜日にマスクも身体距離も無視してデモに参加した万単位の人々が今、ドイツ中に散らばっている。規制への抗議、またニュースを信じないトランプ支持者たちによるデモは先にアメリカ各地でも起きたが、参加者が新型コロナに感染・死亡するケースも出ている。

ワクチンの有効性を信じない、あるいは人体に有害であるとする反ワクチン主義(アンタイ・ヴァクサーズなどと呼ばれる)は昨年からアメリカで社会問題化している。2019年に行われた調査によると、アメリカ成人の45%がワクチンに対して懐疑的だという。一部の極端な反ワクチン主義者には自分や自分の子供に接種を許さず、結果、周囲に感染を引き起こしてしまうケースが続き、WHOは2019年、「ワクチン忌避」を「世界の健康に対する10の脅威」の1つに挙げている。

ドイツはイタリアなどのようにワクチン接種の義務付けはない。連邦健康教育センター(BZgA)によると、20%がワクチンに懐疑的だ。フランスがEU5か国を対象に行った調査によると、この割合は他国よりやや多く、3%は断固として子供に接種させないと答えている。効果や人体への害に対する不安に、政府からの強制を毛嫌いするドイツ人気質もあるだろうが、なかには「ワクチンが病気を蔓延させる」と信じる陰謀主義者もいるようだ。

ただし、おそらく新型コロナのせいだろう、ドイツ人はワクチンに対して以前より好意的であるとBZgAは指摘している。また、最新の感染保護法により保健省は州の合意のもと特定のワクチン接種を要求することができるようになっており、今年3月からは就学年齢の児童に「はしか」の予防接種が義務付けられている。

欧州医薬品庁(EMA)は14日、新型コロナのワクチン開発には楽観的に見ても1年かかると発表した。まだ開発が夢のまた夢の状態で陰謀と関連付けるのも、なんだか滑稽な話だ。同じく14日、来る新型コロナ第二波第三波に備え、来冬のインフルエンザ患者を減らし医療負担を軽減するため、現在は接種が限られている予防接種をより多くの人が利用できるよう保険会社がカバーすることが連邦議会で決定された。なお、一時期話題になった「免疫パスポート」案は保留となっているようだ。

再びロックダウンの可能性も

ドイツでは実効再生産率(Rt)1以下(感染数が縮小する目安)が続いたため、先週になって規制緩和が実行されたが、その直後一時的に1を超えてしまった(緩和は4月末から少しずつ始まっていたので、その影響だろう)。ロベルト・コッホ研究所の発表によると、14日現在のRtは0.75、また同日更新された週平均は 0.88だった。

メルケル首相は緩和と同時に、新感染者が7日間で10万人あたり50人を超えた場合にふたたび各種制限を課す「緊急事態ブレーキ」について告知している。これにより、食肉工場で集団感染が発生した地域などが対応を余儀なくされた。

この2か月、ドイツ市民は厳しい制約に耐え、やっとここまで来た。今ここで「一度に多くを要求しすぎて」すべてを台無しにしてしまわないよう、メルケル首相はルールの遵守、また他者への尊重を呼びかけている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米テスラ、低価格EVで利益率低下も 7─9月期決算

ワールド

トランプ氏、ハマスに警告 合意違反継続なら「残忍な

ビジネス

米ワーナー、完全売却の可能性検討 複数の企業が買収

ワールド

ガザ停戦計画は予想以上に順調、米副大統領 イスラエ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない「パイオニア精神」
  • 4
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 5
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 6
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 7
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 8
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 9
    増える熟年離婚、「浮気や金銭トラブルが原因」では…
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中