最新記事

イギリス政治

ジョンソンの新型コロナ入院で露呈 英国は首相職務不能時の代理に明確規定なし

2020年4月6日(月)15時21分

新型コロナウイルスに感染して自主隔離していたジョンソン英首相(写真)が5日、検査のため入院した。仮に職務の遂行が困難になった場合に誰が代わりを務めるかに注目が集まるが、明確な規定はない。写真はロンドンで3月撮影(2020年 ロイター/Hannah Mckay)

新型コロナウイルスに感染して自主隔離していたジョンソン英首相が5日、検査のため入院した。仮に職務の遂行が困難になった場合に誰が代わりを務めるかに注目が集まるが、明確な規定はない。

政府内では首相のほか、ハンコック保健・社会福祉相も前月に感染したことが判明している。 新型コロナ大流行で世界が危機的な事態に陥っている中で、首相と保健相という2人の感染者が出た英内閣が、どのように運営されていくのかが改めて問われている格好だ。

首相官邸は「主治医の助言により、首相は今夜、検査のため入院した」と発表。「ウイルス検査で陽性反応が出てから10日経っても症状が続いているためで、予備的措置だ」と説明している。

複数の専門家によると、首相が一時的に「離脱」した過去の事例は少ない上にそれぞれ事情が異なっており、正式な「プランB」、つまり閣僚の首相権限継承順位は確立されていない。

シンクタンク、インスティテュート・フォー・ガバメントのキャサリン・ハドン上席研究員は「この種の事態は経験がなく、これまでは、こうした観点から考える必要はなかった」と話した。

米国であれば、大統領が死去するか職務不能になった場合、副大統領が直ちに大統領職務を遂行することが定められている。一方で英官邸は、必要ならラーブ外相が首相代理を務めるとすでに表明しているものの、内閣において首相にもしものことがあった際の正式な職務代行者というものは見当たらず、内閣執務提要(キャビネット・マニュアル)にもルールは設けられていない。

秘密にされたチャーチル首相の発作

1953年6月には当時のチャーチル首相が執務中に心臓発作に襲われた。彼の病気は極秘とされ、事実を知らなかった閣僚もいた。

その後チャーチルは医者が驚くほどに回復し、首相官邸に戻って2カ月後に再び内閣を指揮している。

もっと最近では、2000年代前半に首相を務めたトニー・ブレア氏が2回心臓の治療を受け、いずれも短期間で職務に復帰した。もしブレア氏が職務不能になった場合は、副首相だったジョン・プレスコット氏が、新首相の正式選出まで代理となることが決まっていたという。

ジョンソン氏が職務を遂行できないことを示す要素はない。ジョンソン氏は感染が確認されて以降、テレビ会議を通じて感染前と同様に仕事を続けている。

しかし12年1月から14年9月まで国家公務員担当相を務めたボブ・カースレイク氏は、先月ジョンソン氏の感染が確認された際に、今は目に見える首相の指導力が必要とされているだけに、たとえテレビ会議で職務ができるとしても、何らかの問題が発生しかねないと指摘。政務担当者は、上級閣僚が職務を果たせなくなった場合に何が起きるのかを把握しておく必要があると指摘した。

カースレイク氏によると、その意味では、もしも政府の政策調整を任されているゴーブ内閣府担当相がいなくなった場合は、大きな痛手になる。その上で「ゴーブ氏は全ての要であり、彼が何の理由であれ、病気になってしまうと、誰がその役割を担うのか」と懸念を口にした。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

【関連記事】
・「感染者ゼロ」北朝鮮の新型コロナウイルス対策
・イタリア、新型コロナウイルス死者・新規感染者ともペース鈍化 第2段階の対策検討
・新型コロナウイルス感染爆発で顕在化 「習近平vs.中国人」の危うい構造


cover200407-02.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年4月7日号(3月31日発売)は「コロナ危機後の世界経済」特集。パンデミックで激変する世界経済/識者7人が予想するパンデミック後の世界/「医療崩壊」欧州の教訓など。新型コロナウイルス関連記事を多数掲載。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米GDP上方改定受け

ビジネス

追加利下げ必要、リスク均衡にらみ「急がず段階的に」

ビジネス

米ダラス連銀総裁、FRB金利目標の見直し提案 「T

ビジネス

歴代FRB議長ら18人、クック理事解任認めぬよう要
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
2025年9月30日号(9/24発売)

トヨタ、楽天、総合商社、虎屋......名門経営大学院が日本企業を重視する理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週にたった1回の「抹茶」で入院することに...米女性を襲った突然の不調、抹茶に含まれる「危険な成分」とは?
  • 2
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市場、売上を伸ばす老舗ブランドの戦略は?
  • 3
    クールジャパン戦略は破綻したのか
  • 4
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び…
  • 5
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 6
    【クイズ】ハーバード大学ではない...アメリカの「大…
  • 7
    中国、ネット上の「敗北主義」を排除へ ――全国キャン…
  • 8
    iPhone17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、Ap…
  • 9
    富裕層のトランプ離れが加速──関税政策で支持率が最…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 5
    【動画あり】トランプがチャールズ英国王の目の前で…
  • 6
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 7
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 8
    「ミイラはエジプト」はもう古い?...「世界最古のミ…
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 10
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中