最新記事

アメリカ社会

夜更けの街で酔っ払いを乗せて──ライドシェア運転手の告白

The Drunk Men I Drive Around Every Night

2020年4月4日(土)15時30分
ピーター・ジャクボウィッツ(リフト運転手、ライター)

ライドシェアと飲酒・健康との関係は単純ではない EUGENESERGEEV/ISTOCKPHOTO

<飲酒運転を防ぐ一方、飲酒を助長する恐れもある......「深夜のヒーロー」が見たライドシェアの現実>

「プロ......サーファー」。彼はそう言ったのだと思う。この仕事をしていると相手が何と言ってるのか分からず、適当に相づちを打ってごまかすことも。彼の名はジェームズ。サーフィンのゴーグルをして帽子を目深にかぶっている。

「プロのサーファーですか」と聞いてみる。「プロ......サーファー。ハンチントン......ビーチ。1位......」

だが、ここは陸に囲まれたオレゴン州ビーバートンのスポーツパブの駐車場。時刻は午前3時頃。私は配車アプリによるライドシェアサービス、リフトの運転手だ。

告げられた行き先はハンバーガー店。もう閉まっているよと伝えても、ジェームズは「行け......行け」と言う。

仕方なく店に向かうが、やはり午後9時で閉店。がらんとした駐車場で、ジェームズにほかに行きたい所はないかと聞く。

彼の返事は「ストリップクラブ」。店名とまだ営業しているかを尋ねたら「コストコ」だという。コストコはストリップクラブじゃないし、もう閉店時刻を過ぎている。それでも彼がコストコと言い張るので、一番近い店舗に向かう。数分後、それまで静かだったジェームズがしきりに身ぶりで何か伝えようとする。ここで降りたいらしい。

「ここで?」。3階建ての高級コンドミニアムに囲まれた通りで停車する。「このどれかに住んでるんですね?」。客をちゃんと送り届けたい思いに嘘はない。ジェームズは車を降りて一目散に建物に向かい、ドアの向こうに消える。その夜はそこで切り上げた。

次の夜は午後11時頃に出発。最初の客はまた同じスポーツパブから乗ったジェームズ。車に乗るなり「プロ......サーファー」ときた。ゴーグルと帽子は同じだが、言葉はいくらかましだ。前夜の話をしても、彼は私を覚えていないようだ。

NPO「飲酒運転追放を目指す母親たち(MADD)」によれば、ライドシェアには飲酒運転による死亡事故を防ぐ効果があるという。ウーバーも長年MADDと提携。ライドシェアを通して飲酒運転を防止する「深夜のヒーロー」でありたいという思いは、リフトも同じだ。

ライドシェアの飲酒運転防止効果については調査によってまちまちだ。それでも、リフト運転手としての経験と医療担当の議会記者時代の経験から言えば、ライドシェアと飲酒・健康との関係は単純ではない。

飲酒自体は増加の恐れ

2019年11月、ジョージア州立大学とルイビル大学と司法省の研究チームは、ライドシェアの利用しやすさが飲酒に及ぼす影響に関する研究結果を発表。ジョージア州立大学のキース・テルツァー助教によれば「きっかけはライドシェアが飲酒運転に及ぼす影響は比較的小さいという複数の論文だった」という。

テルツァーらは米疾病対策センター(CDC)による生活習慣病のリスク行動調査のデータを使い、ウーバーのライドシェア市場参入後の09~16年のアルコール消費を分析。低価格のウーバーXの利用と関連して「アルコールの1日の平均消費量が3.1%、1カ月の飲酒回数は2.8%、1回の最多飲酒量は4.9%、節度のない飲酒は9%増加した」と報告した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ホーム・デポ、通期利益見通し引き下げ 景気不透明で

ワールド

ポーランド鉄道爆破、関与の2人はロシア情報機関と協

ワールド

米、極端な寒波襲来なら電力不足に陥る恐れ データセ

ビジネス

英金利、「かなり早期に」中立水準に下げるべき=ディ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中