最新記事

新型コロナウイルス

動物から人にうつる未知のウイルスの出現を止められない訳

THE END OF THE WILD ANIMAL TRADE?

2020年3月12日(木)15時00分
リンジー・ケネディ、ネイサン・ポール・サザン

コウモリは多くのウイルスを持つ REUTERS/Daniel Munoz

<野生動物の取引は、いわば病原体のデパート。取引が続く限り、未知の人獣感染症が世界的なパンデミックを起こす可能性はなくならない。本誌3月17日号の特集「感染症vs人類」より>

エボラ出血熱、炭疽、腺ペスト、SARS(重症急性呼吸器症候群)、新型肺炎。mag20200317coversmall.jpgこれらはみな動物から人にうつる「人獣共通感染症」だ。人の免疫系には未知の病原体だから、しばしば重篤な症状を起こす。

中国・武漢で集団感染が発生した新型コロナウイルスは野生のコウモリ由来とみられているが、人への感染を媒介した中間宿主は分かっていない。漢方薬の材料として密猟され、絶滅が危惧される哺乳類センザンコウの押収された検体から遺伝子配列が近いウイルスが検出されたが、媒介したという確証はない。

中間宿主が希少な動物であれ、豚など身近な動物であれ、確実に言えることがある。狭い場所にさまざまな動物が詰め込まれれば、病原体が種から種へと飛び移り、突然変異を起こす確率が高まるのは明らかだ。

人にうつる新型感染症の4分の3は動物由来といわれる。20世紀以降、人間は辺境の地にどんどん踏み込み、開発を進めてきた。そのため人と家畜が野生動物と接触する機会が増え、野生動物の持つ細菌やウイルスが人の生活圏に入り込むようになった。

「野生動物を捕獲するために奥地に踏み込めば、人が未知のウイルスにさらされる確率も高まる」と、WHO(世界保健機関)の国際食品安全当局ネットワークのピーター・ベン・エンベレクは言う。「種の存続を脅かす狩猟と密猟を禁止する必要があるのは明らかだ。世界のどの国の当局者もそれを認めるだろう」

だが「言うは易く、行うは難し」。野生動物の違法取引は世界の犯罪組織を潤す4大違法ビジネスの1つで、その市場規模は最大年間260億ドルに上る。最大の市場は中国で、特に漢方薬の材料となるトラの骨、サイの角、センザンコウのウロコなど希少動物の部位は高値で売れる。

中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は2013年、腐敗一掃キャンペーンの一環として、公式の宴会でフカヒレのスープなど野生動物を使った料理の提供を禁止した。それまで高級食材とされる野生動物のメニューは公的な催しに欠かせないものだった。

野生動物の肉を売る海鮮市場は、新型コロナウイルスの大流行で閉鎖されるまで中国各地にあった。タイ、ラオス、ミャンマーの国境地帯に広がるかつてのケシ栽培地帯、現在はカジノが立ち並ぶラオスの「ゴールデン・トライアングル経済特区」など、中国政府の監視の目が届かない場所で十分な金を出せば、今でも象牙やトラの毛皮を買えるし、絶滅危惧種の動物を使った高級料理を堪能できる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 8
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中