最新記事

感染症

ラオス初の新型コロナウイルス感染確認 ASEANすべてで感染報告、感染源は海外か?

2020年3月25日(水)12時49分
大塚智彦(PanAsiaNews)

国境制限、営業中止、集会禁止など対策していたが

ミャンマーを除く周辺国で感染拡大が続くなか、ラオス政府はこれまでに可能な限りの国内での感染発生、感染者の流入を阻止するために必要な措置を講じてきた。

一部ではミャンマーとラオスの医療水準や感染検査態勢の低さや不十分さを指摘して「感染者ゼロ」を疑問視する声も出ていたが、ラオス保健当局は「感染者ゼロ」を発表し続けてきた。

ラオスは人民革命党の一党支配による社会主義国家であり、すべての新聞は政府機関が発行し、またテレビ・ラジオは国営放送のため、報道の自由度は極めて低い。このためコロナウイルスに関する国民への情報の周知徹底、情報開示がどこまで実際に行われているかは外部から知ることは難しいとされる。

しかしラオス国内では初の感染者が確認される前の3月中旬から、政府主導でタイとの国境での出入国の制限、大規模な集会などの禁止、娯楽施設の閉鎖に加えて、4月21日までの全ての学校の休校措置などで感染の国内流入と感染拡大阻止の対策を講じていた。

外交的に関係の深い中国との海外定期航空便も停止。世界的観光地でもあるタイ、ミャンマーとメコン川を挟んで国境を接するゴールデン・トライアングル(黄金の三角地帯)周辺の道路を封鎖して立ち入り制限にも踏み切るなど対策を取っていた。

また多くのラオス人が海外出稼ぎ労働者として働くタイからの帰国者数千人に対する検疫も23日から本格的に開始するなどの取り組みも始めたばかりだった。

マスクの価格上限設定など対応

国民に対しては国民体育大会の延期を決めたほか、市場で品不足が伝えられているというマスクに関して政府が主導して価格の上限を決めて適正販売を促していた。

現地からの情報などによると、市場でのマスクの価格は三つ折り形式のマスクが1個2万5000キップ(約2.8ドル)、一つ折りマスクが1個1000キップ(約10セント)を上限価格として販売するように保健当局が各方面に指導しているという。

ラオス保健当局では2人の初の感染確認と同時に129人の感染が疑われる患者に対する検査を実施したことも明らかにしたが、検査の結果全員が陰性であったとしている。

初の感染が確認されたことで、ラオス国内では国民の感染予防に関する意識が一気に高まり、マスクや消毒用アルコール、さらに生活関連物資などの品不足や品切れが都市部を中心に今後起きる可能性もある。このため政府、保健当局によるさらなる感染拡大防止対策が急務となることは間違いない。

またASEANとしては、地球規模のパンデミックだけに東南アジア地域としてまとまった対応の必要性が求められていることに加え、ラオスでの感染者初確認で加盟国全てでの感染が確認されたこともあり、今後は加盟各国の保健担当閣僚などによる新たなコロナウイルス対策会議の開催が必要になってくることも予想されている。

otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など


【関連記事】
・ミャンマー、新型コロナウイルス初の感染確認 スー・チー自ら手洗いで感染予防訴え
・インドネシア首都ジャカルタは「非常事態」? 新型コロナウイルスめぐり在留邦人に緊張と混乱
・取り残されたセブ島の日本人 新型コロナウイルスで封鎖のフィリピンから臨時便が日本へ


20200331issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月31日号(3月24日発売)は「0歳からの教育 みんなで子育て」特集。赤ちゃんの心と体を育てる祖父母の育児参加/日韓中「孫育て」比較/おすすめの絵本とおもちゃ......。「『コロナ経済危機』に備えよ」など新型コロナウイルス関連記事も多数掲載。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指

ワールド

米との鉱物協定「真に対等」、ウクライナ早期批准=ゼ

ワールド

インド外相「カシミール襲撃犯に裁きを」、米国務長官

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官を国連大使に指名
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中