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中東和平

トランプの中東和平案は、イスラエル占領を既成事実化する「トロイの木馬」

Trump’s Trojan-Horse Peace Plan

2020年2月7日(金)19時30分
カリド・エルギンディ(中東問題研究所上級フェロー)

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新たな和平案に抗議するパレスチナの人々(ヨルダン川西岸) RANEEN SAWAFTA-REUTERS

トランプ案の目玉はヨルダン川西岸の約7割を占める地域に「パレスチナ国家」なるものを樹立する計画だ。しかし、この国家には実質的な主権は存在しない。アパルトヘイト(人種隔離政策)時代に南アフリカ政府が黒人から土地を奪うために設けた名目上の独立国バントゥースタンのようなものなのだ。

非常に気になるのは、アラブ系イスラエル人が多く住む地域を「パレスチナ国家」に入れるという提案だ。これはイスラエルを純粋なユダヤ人国家にすることを目指す極右の主張にほかならない。

さらに、パレスチナ国家はエルサレムの「近くに」首都を置くことができるが、エルサレムの恒久的な主権はイスラエルに認められる。

パレスチナ難民については、2000年にクリントン米政権が和平実現への枠組みを提案した際も、2007~08年にブッシュ米政権が仲介を務めたアナポリス中東和平国際会議も、象徴としてではあるが一部の帰還を提示した。

しかし、トランプ案は、「パレスチナ難民がイスラエル領内に帰還する権利はない」とする。彼らは現在の受け入れ国か、第三国か、あるいは今後建設されるパレスチナ国家を選ぶことになる。

パレスチナが、今回の和平案を前提とした交渉に同意する可能性は皆無だ。パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長は、和平案は「謀略」であり、いずれ「歴史のゴミ箱」に葬り去られると怒りを隠さない。

もっとも、パレスチナ側の拒否を引き出してイスラエルによる併合の口実に利用することも、トランプ案の意図するところかもしれない。

ネタニヤフは和平案の発表直後に、ヨルダン川西岸の入植地にイスラエルの主権を拡大することを、数日以内に閣議で決めると語った。デービッド・フリードマン駐イスラエル米大使は直ちに、イスラエルのいかなる併合も無条件で支持すると応じた。

アメリカがイスラエルを過剰に優遇するのは初めてではないが、これほどの露骨さはなかった。アメリカの歴代政権は、口先だけでも国際規範に敬意を払い、イスラエルによる占領を終わらせて、理論上はパレスチナの自決権を守るべきだと主張した。

それに対しトランプは、半世紀以上にわたる和平交渉の基本的な原則も前例も、あからさまに切り捨てる。パレスチナとしては、それらの原則があるからこそ、自分たちよりはるかに強力なイスラエルとの交渉に臨んできたのだ。

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