最新記事

中国経済

新型肺炎パニックの経済への影響は限定的

Will the Virus Hamper China’s Growth?

2020年2月6日(木)19時30分
ウエイ・シャンチン(コロンビア大学教授、アジア開発銀行元チーフエコノミスト)

第2に、現時点で分かっている限りでは、新型肺炎の致死率はSARSより低い。同じく重要な点として挙げられるのが、中国当局がSARSの頃よりはるかに迅速に、情報統制からウイルス拡散防止に軸足を移していることだ。

感染者や感染が疑われる患者を隔離する中国当局の積極策によって、思ったよりもずっと早くウイルスを封じ込める確率は上がっている。そうなれば、今年1~3月期に失われる分の生産高は、年末までの活動増加によって相殺される可能性が高まる。

最後の手段になるのは

第3に、米中が1月15日に貿易協議の「第1段階」合意文書に署名したのは、中国側の担当者が新型ウイルスの問題を認識していたかどうかはともかく、実にラッキーなタイミングだった。マスクや医療用品の輸入を大幅に増やすことで、中国は公衆衛生上の危機に取り組むと同時に、合意に盛り込まれた購入拡大の公約を果たすことができる。

中国以外の国々の経済が受ける影響はさらに限られるだろう。多くの国の中央銀行はこの5年間、中国経済の減速が自国に与えるインパクトの評価モデルを開発してきた。これらのモデルは新型ウイルス危機を織り込んではいないが、中国と自国の貿易・金融面のつながりについては考慮している。

経験則に従えば、中国のGDP成長率低下が欧米経済に与える悪影響の規模は中国の0.2倍。例えば、新型肺炎流行によって中国の成長率が0.1ポイント下がった場合、欧米の成長率は約0.02ポイント低下する可能性がある。

コモディティ(1次産品)貿易や観光部門で中国との結び付きがより強いオーストラリアでは、影響の規模は欧米の2倍に及びそうだ。それでも0.04ポイントの減退は大した数字ではない。

こうした計算は、新型コロナウイルスがこれらの国に広く拡散せず、直接的な大混乱が起きなければ、との条件が前提だ。中国国外での感染者数が少ないことを考えると、そうした事態が起こるとは今のところ思えない。

もちろん、私の想定よりはるかに長く危機が続けば、中国と世界各国の経済が受けるダメージはより深刻になりかねない。だがそうなっても、中国にはまだ金融・財政両面の拡大政策という選択肢があることを忘れてはならない。

中国の金融部門の準備率は比較的高く、公的債務がGDPに占める割合は国力が同等の他国と比べれば対処可能な規模だ。この政策余地を必要に応じて利用することで、中国当局は危機の最終的な影響を限定的なものに抑えられるかもしれない。

中国、そして世界中が新型ウイルスの不安に駆られているのは当然だ。それでも経済的観点からすれば、パニックになるのはまだ早い。

©Project Syndicate

<本誌2020年2月11日号掲載>

【参考記事】新型コロナウイルス感染爆発で露呈した中国政府の病い
【参考記事】中国経済、新型コロナウイルス感染拡大の影響は想像を上回る

20200211issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月11日号(2月4日発売)は「私たちが日本の●●を好きな理由【韓国人編】」特集。歌人・タレント/そば職人/DJ/デザイナー/鉄道マニア......。日本のカルチャーに惚れ込んだ韓国人たちの知られざる物語から、日本と韓国を見つめ直す。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ビジネス

アップル、新たなサイバー脅威を警告 84カ国のユー

ワールド

イスラエル内閣、26年度予算案承認 国防費は紛争前

ワールド

EU、Xに1.4億ドル制裁金 デジタル法違反
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 7
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 8
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 9
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中