最新記事

人体

放射線治療中、目が発光している様子がはじめて撮影された その正体は?

2020年1月21日(火)16時30分
松岡由希子

目の中で光が生成された...... Lesley Jarvis, MD, PhD

<米ダートマス大学の研究チームは、特殊なカメラによって放射線の照射によって目の中で光が生成される様子をとらえた......>

放射線治療を受けている患者から「目を閉じていても光線が見える」との声がたびたび報告されてきた。

イスラエルのテルアビブ・ソウラスキ医療センターのデボラ・ブルメンソール博士らが2015年5月に発表した研究論文によると、脳への外照射治療を受けた患者3名が、放射線の送達と同時に明るい光や青い光を知覚したという。そしてこのほど、この光を視覚的にとらえることに世界で初めて成功した。

眼球の「硝子体液」を放射線が通過するとチェレンコフ光が生成される

米ダートマス大学の研究チームは、放射線照射中の生体系からの発光現象をリアルタイムに可視化する特殊なカメラシステム「CDose」を用い、放射線の照射によって目の中で光が生成される様子をとらえた。

この光は視覚を誘発するのに十分なほど生成されており、チェレンコフ光に似たものであった。一連の研究成果は、アメリカ放射線腫瘍学会議(ASTRO)の機関誌に2019年10年25日付で公開されている。

チェレンコフ光は、荷電粒子が荷電媒体を通過し、その位相速度が光速を超えると生成される。水中の原子炉で見られる青い光や、高エネルギーの宇宙線と地球の大気との相互作用により発生する光などがその例だ。

2008年1月に発表された米コロラド大学ボルダー校の研究論文では、目の水晶体と網膜との間の「ガラス体」を満たす「硝子体液」を放射線が通過するとチェレンコフ光が生成され、網膜がこれを感知することが示されている。

ダートマス大学の研究チームは、「定位放射線治療」を受けている患者の目の中で生成された光を「CDose」でリアルタイムにとらえることに成功した。

gr5-1.jpg


「CDose」では、様々な方向から放射線を照射した際、ブタの目から発光している様子もとらえている。

gr4.jpg


いずれも、米コロラド大学ボルダー校の研究結果と同様、放射線が通過するとき「硝子体液」で光が生成された。リアルタイムで測定したデータによると、生成された光は視覚を誘発するのに十分な量であった。また、光の組成を分析したところ、この光はチェレンコフ光に分類されることもわかった。

放射線治療の精度の向上に役立つ

一連の研究成果は、放射線治療の精度の向上に役立つと期待が寄せられている。たとえば、放射線治療中に目から発光している様子をモニタリングし、放射線が目を通過しているかどうか、直接、確認することが可能となる。研究チームでは、今後、チェレンコフ光と放射線量との関係を分析し、目に照射された放射線量の予測や測定に用いるツールの開発などに取り組む方針だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、5対4の僅差 12月利下げの

ビジネス

ユーロ圏小売売上高、9月は前月比0.1%減 予想外

ビジネス

日産、通期純損益予想を再び見送り 4━9月期は22

ビジネス

ドイツ金融監督庁、JPモルガンに過去最大の罰金 5
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの前に現れた「強力すぎるライバル」にSNS爆笑
  • 4
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 5
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 6
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 7
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 8
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 9
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中