最新記事

米イラン危機:戦争は起きるのか

米イラン対立、それでも報復が実行される理由

IRAN HAS BIGGER PLANS FOR REVENGE

2020年1月15日(水)11時50分
ザック・ドーフマン(カーネギー倫理・国際問題評議会・上級研究員)

「彼女の持つ情報はどれも古くなっているが、イラン側は彼女から米軍の思考回路を探り出せる」と元DIA副長官のワイズは言う。「これからの非対称戦に備えてアメリカがどんな防衛策を取るか、イランにとっては貴重な情報が得られる」

イランは米軍による猛攻撃を招かないよう、比較的に地味な標的を選んで散発的な攻撃を仕掛けるかもしれない。外国にいる政府関係者や施設が狙われそうだ。中南米、東南アジア、中東で、アメリカの外交施設に何者かが爆弾を仕掛ける。あるいは外交官に成り済ましたCIA要員の身元が割れて標的とされる。

世界各地で散発的に執拗に

そういう作戦が、例えばヒズボラによって遂行されれば、イラン側の思惑どおりとなる。繰り返しアメリカに痛い思いをさせてやり、それでもイランは直接的な責任を認めないで済むからだ。

複数の元情報当局者らが心配するように、最悪の場合はイランかヒズボラが米国内でテロ攻撃に出る恐れもある。実際、2011年にはクッズ部隊の要員が首都ワシントンで、駐米サウジアラビア大使の爆殺を計画していた。これは未然に防ぐことができたが、今度はソレイマニの地位にふさわしいもっと高位の標的が検討されているかもしれない。

イランとその手先の勢力は入念に攻撃の準備をしている。米国内に情報要員を潜伏させ、攻撃しやすい標的を探している。昨年にはアメリカでの裁判でイラン人の男2人が、イランの情報活動に従事した罪を認めた。そのうちの1人はシカゴのユダヤ教施設の下見を行い、米国内に住む反体制派イラン人に関する情報をとりまとめていた。

やはり昨年、ニューヨークでレバノン系米国人アリ・コウラニがヒズボラ要員としての活動で有罪になった。米政府施設とジョン・F・ケネディ国際空港について標的を定めるための資料を集めていたという。

ちなみにコウラニは10年に、ニューヨーク在住の現役または退役イスラエル兵を暗殺候補として調べるよう、ヒズボラから指示されていた。ヒズボラ幹部イマド・ムグニアがイスラエルに殺害されたことへの報復という位置付けだった。

記憶は消せない。当初の爆発的な怒りの表現(イラク内の米軍基地へのミサイル攻撃や中東にある米外交施設の襲撃など)はやがて静まるとしても、世界のどこかで散発的だが執拗な報復が繰り返されることだろう。戦争ではないが、平和とは程遠い状況が続くのだ。

かつて哲学者のハンナ・アーレントは書いた。「暴力の行使は世界に変化をもたらす。ただし、おそらくはもっと暴力的な世界への変化だ」と。その証拠が、ソレイマニの血塗られた遺産なのだろう。

From Foreign Policy Magazine

<2020年1月21日号「米イラン危機:戦争は起きるのか」特集より>

20200121issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年1月21日号(1月15日発売)は「米イラン危機:戦争は起きるのか」特集。ソレイマニ司令官殺害で極限まで高まった米・イランの緊張。武力衝突に拡大する可能性はあるのか? 次の展開を読む。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ペトロナス用船のイラク原油運搬タンカー、ホルムズ海

ビジネス

OPECプラス8カ国が5月増産に合意、海峡封鎖で実

ワールド

トランプ氏、7日まで海峡封鎖ならイラン 攻撃示唆 

ワールド

不明兵捜索、時間との戦い イランの猛攻耐えた米軍救
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙の2大テーマでAI懸念を払拭できるか
  • 2
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 3
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「攻撃的知能」を解剖する
  • 4
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 5
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 6
    地面にくねくねと伸びる「奇妙な筋」の正体は? 飛行…
  • 7
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 8
    トランプ、イランに合意期限「米東部時間6日午前10時…
  • 9
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 10
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 5
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 6
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 7
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 8
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 9
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 10
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中