最新記事

日産

ゴーン追放で日産が払った大きな代償

Ghosn’s Escape from Japan is Now Legendary

2020年1月9日(木)18時05分
ビル・パウエル(本誌シニアライター)

逃亡先で初めて開いた記者会見で2時間近く恨みをまくし立てたゴーン(1月8日、レバノンのベイルート) Mohamed Azakir-REUTERS

<常識外れの逃亡方法といいベイルートでの記者会見といい、今のゴーンはエキセントリックな男にしか見えないが、そうさせたのは日産と日本政府なのか?>

1年前には想像もできない光景だった。

かつて、巨大企業ルノー日産連合のCEOとして世界中を飛び回っていたカルロス・ゴーンは1年前、東京拘置所に拘留され、憔悴し、白髪になり、精神的な破綻に追い込まれていた。

そのゴーンが昨年末、検察の意表をつく手法で日本から逃亡。1月8日にレバノンの首都ベイルートで200人超のジャーナリストを前に2時間近く、日産と日本の司法の「罪」を問う1人裁判劇を演じてみせた。時には怒り、けんか腰になり、時にはきまじめに考え込む凝った演出で、「東京で独房に(勾留されて)いたとき、私がどれほど(権利を)剥奪されたか、とても言葉にできない」と、陪審員ならぬ世界中の視聴者に訴えた。

ゴーンの逮捕とその後の逃亡という驚きの連続に目を奪われて見落とされがちなのは、ゴーンが経営破綻の淵から救った日産と彼が「戦争状態」になったそもそもの発端だ。

日本第2位の自動車メーカーだった日産は、国内外での拡大路線の行き過ぎとシェア低下で危機に陥り、1999年に仏ルノーと資本提携を結んだ。

V字回復を達成しても

ゴーンはその後2年足らずで日産のCEOに就任。傾いたとはいえ輝かしい歴史を誇る企業のトップに外国人を迎えるのは、当時の日本では前代未聞の出来事だった。特に日産は長年、日本政府と密接な関係を保ち、時にはそれが批判を招いてきた企業。日産も加わっていたかつての財閥、日産コンツェルンは、政府の要請を受けて1930年代に日本の統治下にあった中国東北部の旧満州に本社を移し、旧日本軍のためにジェットエンジンとトラックを製造していた。日本の傀儡国家だった当時の満州国で産業開発を指揮していたのは、戦後、日本の自由民主党の有力者となり首相も務めた岸信介だ。岸はまた現在の首相である安倍晋三の母方の祖父でもある。

21世紀の幕開けとともに、ゴーンは日産のV字回復を達成。日産は、外国人が有名企業の経営トップになれる新しい日本、開かれた日本のシンボルとしてメディアに賞賛された。だが実のところ、日産の元取締役も含む複数の情報筋によると、日産社内にも政界にも、ゴーン支配に反発する向きがあった。「カルロスはそもそもの初めから、自分に対する一定程度の不満がくすぶっていることを気づいていた」と、ゴーンの顧問と親しい人物は明かす。「水面下では絶えず、自分たちの会社の経営権を取り戻そうとする逆流が渦巻いていた」

<参考記事>強烈な被害者意識と自尊心 ゴーンが見せていた危うい兆候
<参考記事>カルロス・ゴーン逮捕、アメリカでどう報じられたか

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 6
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 7
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 8
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中