最新記事

野生動物

インドネシア、GPS装着でゾウの行動追跡 絶滅の危機にあるスマトラゾウ保護策

2020年1月27日(月)12時45分
大塚智彦(PanAsiaNews)

わなにかかって3日間動けなくなったスマトラゾウの子象が救助される事件も起きている。 KOMPASTV / YouTube

<開発によって住む場所を失った野生動物たち。人間との接触でトラブルが発生しないように対策が始まった>

インドネシアのスマトラ島に生息し絶滅の危機に瀕しているアジアゾウの一種であるスマトラゾウを住民との不要な接触や密猟から保護するために、地元自然保護局などがスマトラゾウにGPS発信器を装着する試みをはじめた。

地元英字紙「ジャカルタ・ポスト」(ネット版)が1月25日に伝えたもので、野生のスマトラゾウの行動範囲をGPSで追跡確認することで周辺の農民との無用な接触や象牙目的の密猟阻止につなげたいとしている。

スマトラゾウはアジアゾウの中では最も小さいゾウといわれ、オスの象牙はあまり長くならず、メスの象牙は上唇に隠れるほど短いのが特徴。

世界自然保護基金(WWF)など自然保護団体によると、過去25年で個体数は半減。現在はスマトラ島リアウ州、アチェ州、北スマトラ州などを中心にして約2400~2800頭が残るのみと絶滅の危機に瀕しており、密猟や捕獲がインドネシア国内法によって厳しく禁じられている。

また象牙も現在は原則として国際取引が禁止されているが、印鑑や彫刻などの装飾品、ピアノの鍵盤、漢方薬などに使われることもあり、中国や日本での需要は少なくないという。

リアウ州自然保護局担当者と国立公園基金、自然保護フォーラム、ボランティアらは同州のシアク、カンパール地区、さらに州都プカンバル周辺に生息し、周辺を行動地域とするスマトラゾウの群れを対象に1月22日にGPS発信器を装着する作業を実施した。

群れは地元で「プタハパン」と呼ばれる11頭からなる群れで、民家周辺や農地付近に頻繁に現れて住民や農民と接触して問題になったり農地を荒らしたりするケースが多いことからこの群れが最初のGPS発信器装着の対象に選ばれたという。

GPSをモニターして群れを追跡調査

首の周辺にGPS発信器を装着された11頭は今後自然保護局担当者などによりその行動が随時モニターされることになる。そしてもしスマトラゾウが単独あるいは群れで人家のある地域や農地などに近づこうとした場合、担当者らが駆けつけてゾウを誘導して森に戻るように仕向けることで不測の事態を回避する方針という。

GPS発信器によるゾウの行動範囲の監視で、人の居住地区や農地への接近により発生する地元民とのトラブルを事前に回避することとともに、象牙を狙う不法業者による密猟も未然に防ぐことが可能になるとしている。

自然保護局などでは今回のGPS装着による成果と実績を勘案しながら、今後は別のスマトラゾウの群れへのGPS装着も推進したいと前向きに考えている

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓日米、15日から年次合同演習実施 北朝鮮の脅威に

ビジネス

日立、米国で送配電機器の製造能力強化 10憶ドル超

ワールド

韓国、日本車関税引き下げの影響を評価 米大統領令受

ワールド

バイデン氏、皮膚のがん細胞切除手術 順調に回復=報
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害」でも健康長寿な「100歳超えの人々」の秘密
  • 4
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 5
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 6
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    世論が望まぬ「石破おろし」で盛り上がる自民党...次…
  • 9
    SNSで拡散されたトランプ死亡説、本人は完全否定する…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 9
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中