最新記事

インタビュー

「黒船CEO」ゴーンがかつて語った──「異文化の衝突が真の変革を生む」

Imagining Something Better

2020年1月29日(水)18時50分

東京で記者たちの質問に答える日産CEO(当時)のカルロス・ゴーン(02年5月) Eriko Sugita-REUTERS

<レバノンに逃亡中のカルロス・ゴーン元日産会長は、記者会見で日本メディアをほぼ締め出し、日産への敵意を露わにした。そのゴーンはかつて、外国人として日本企業のトップに就任したことをどう捉えていたのか。2002年の本誌の特集「黒船CEO――外国人社長は日本企業をここまで変えた」(02年8月7日号)に収録されたインタビューを再掲載する>

24歳のときに仏ミシュランに入社して以来、日産自動車のカルロス・ゴーン社長はさまざまな文化圏で経営者としてのキャリアを積み重ねてきた。文化を超えた経営やグローバル企業の条件について、ニューズウィーク日本版編集部がゴーンに聞いた。


――新型Zは、日産にとってどんな意味があるのか。

日産の復活を象徴し、日産がめざす未来をイメージさせるものだ。デザイン、品質、環境対応などあらゆる面で、日産の技術力を感じてもらえると思う。

――コストカッターと呼ばれたあなたが、高級スポーツカーのZを復活させたことに驚いた人もいる。

私たちは当初から、リバイバルプランの目的は日産を成長軌道に戻すことだと言ってきた。コストカットは技術開発に投入できる資本を確保し、成長を実現するための手段にすぎない。

――多文化であることは強みだと思うか。

そう思う。

――あなた自身もさまざまな国の文化の中で生きてきた。

人類は歴史の初めから、異なる考えを衝突させ合うことで変革や新たな価値を生み出してきた。それは物理学でも医学でも、ビジネスでも同じだ。文化が交わり、互いの違いを認識することで、より豊かな発想が生まれる。21世紀には、文化を超えた経営が価値あるものになると思う。

――Zの開発にも多文化の力が生かされているのか。

日本とアメリカ、ドイツのデザインセンターが提案したなかからデザインを選び、国境を超えた開発チームを作った。その意味で、この車は異なる文化の衝突が生んだといえる。だからこそ、日本だけでなくヨーロッパやアメリカでも成功を収めると信じている。

――世界共通のビジネスの原則があるとしたら、それは何か。

すべてのビジネスの基本は利益を上げることだ。そのためには顧客の要望に目を向け、社員のやる気を引き出す必要がある。この原則は、アメリカ型とかヨーロッパ型とか、1つの文化でくくれるものではない。

――真のグローバル企業とは。

多文化の経営を実現している企業だと思う。世界的に成功している企業はどこもそうだ。同時に、部門や国境を超えた交流があり、1つの共通した戦略を全員が把握している企業だ。それぞれの地域に根づいたビジネスを展開しているのがグローバル企業だと言う人もいるが、それだけでは十分でない。

――グローバル企業に貢献するためには何が必要か。英語力やMBA(経営学修士号)か。

MBAは必須ではないが、英語力は欠かせない条件となるだろう。戦略実現の最良の方法を見つけるには、偏見や先入観をもたないことも重要だ。それにはまず自分が変わらなくてはならないが、アイデンティティーが脅かされると考えるべきではない。自分のアイデンティティーをしっかりもっていれば、異文化に対応し、会社に貢献する方法も見いだせる。

――日産の社員をどう思うか。

戦略が定まれば、抜群の実行力を発揮する。それが彼らの強さだ。あらゆる面で戦略転換を迫られたので大変だったと思うが、方向が定まった後は素晴らしい実行力をみせてくれた。

――日本企業はもっと外国人社長を迎えるべきだろうか。

外国人であることが解決策ではない。大切なのは、異なるマーケットで幅広い経験を積んだ人材であるかどうかだ。

<2002年8月7日号掲載「黒船CEO――外国人社長は日本企業をここまで変えた」より>

【参考記事】20年前、なぜ日本は「黒船CEO」ゴーンを求めたのか

20200204issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月4日号(1月28日発売)は「私たちが日本の●●を好きな理由【中国人編】」特集。声優/和菓子職人/民宿女将/インフルエンサー/茶道家......。日本のカルチャーに惚れ込んだ中国人たちの知られざる物語から、日本と中国を見つめ直す。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:中ロとの連帯示すインド、冷え込むトランプ

ビジネス

主要企業の26年度、営業益12%増を予想 6月から

ビジネス

ポルシェAG、独DAX指数から除外 スカウト24採

ワールド

リスボンのケーブルカー脱線事故で死者17人に、当局
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 3
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 4
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中