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香港で「超人」と呼ばれる大富豪、習近平との「長く特殊な関係」

2019年12月6日(金)12時53分

李氏の人生を左右した歴史の荒波

ここ数カ月、李氏に対して非常に厳しい批判が浴びせられているが、こうした不和が突然に生じたわけではない。抗議活動が香港を揺るがす前から、李氏はすでに中国との経済的な絆を弱めつつあった。

21世紀を迎えた時点で、李氏にとっての本丸であるハチソン・ワンポアは利益の多くを香港・中国本土から得ていた。利払い・税引前利益全体の56%に上った。だが、昨年はこの比率が14%にとどまった。2015年以降、李氏が支配する企業グループは、世界各地で合計700億ドル以上もの企業買収に関与している。

李氏に関わる5億ドル以上の規模の投資案件についてロイターが分析したところ、香港・中国本土での投資額は10億ドルに満たなかった。

李氏の広報担当者は、こうした数値に関する質問に対して、ハチソン・ワンポアは1990年代末から2000年代初めにかけて海外での大型買収を進めており、「こうした多角化に伴って地理的な比率が変化した。とはいえ、中国本土と香港でも成長を続けている」と答えている。

さらにこの広報担当者は、2015年のグループ再編に伴い、現在のハチソン・ワンポアに関しては、地元での収益の比率が低下していると説明した。

李氏の巨大企業グループの元マネージング・ディレクターであり、大富豪である李氏を数十年にわたって知るサイモン・マレー氏は、巨額の事業利益を中国の直接の勢力圏の外に移していけば中国本土の当局者を怒らせるリスクがある、と語る。

「そもそも香港にいる人間なら誰しも、中国本土がどう考えるかという点にも注意を払うものだ」とマレー氏は言う。「先方との人脈を築いておかなければ、資産を没収される恐れがある」

現役を引退した李氏にとって、中国政府との対立は劇的な変化である。1970年代末から2000年代初めにかけて中国を指導した鄧小平、江沢民両氏のもとで、李氏は数十年にわたって声望を得てきた。英国からの返還後、香港統治の準憲法となっている香港基本法を起草する委員会にも参加し、最初の行政府を選ぶ機関にも名を連ねた。

李氏の生涯を左右してきたのは、香港、そしてその境界に巨大な姿を横たえる中国の歴史の荒波である。彼は1928年に河川沿いの都市、潮州市に生まれた。幼少時、中国南部のこの街は、日本軍による空襲の標的となった。12歳のときに学校を辞め、家族とともに海岸に沿って南に逃れ、当時英国の植民地だった香港にたどり着いた。

香港は1941年に日本に占領された。占領中は食糧不足、栄養失調、病気に悩まされた。香港にたどり着いてまもなく、父親は結核のため命を落とした。「15歳にもならないうちに、李氏の肩には家族を養う責任がのしかかった。彼はプラスチック貿易の会社に仕事を見つけ、1日16時間働いた」

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