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香港で「超人」と呼ばれる大富豪、習近平との「長く特殊な関係」

2019年12月6日(金)12時53分

香港で「超人」と称せられる李嘉誠氏は、抗議活動が香港を揺るがす前から、中国との経済的な絆を弱めていた。写真は2016年3月、香港で記者会見する伝説の大富豪、李嘉誠氏(2019年 ロイター/Bobby Yip)

1993年1月、ふくよかな頬と豊かな黒髪が目立つ、野心に富む39歳の中国共産党幹部が香港を訪れた。彼は、自らの地盤である二級都市・福州への投資を募る狙いで、立ち並ぶ輝かしい高層ビルのなか、香港の富裕層の面会を求めた。それが習近平氏だった。

その年8月、習氏は地元で1人の来客を迎えた。香港で最も著名な大物で、優れたビジネス手腕から香港では「超人」と称される李嘉誠氏が福州を訪れたのだ。このときの写真を見ると、習氏は笑顔を浮かべつつ、花束を手にした李氏の隣を歩いている。背景には李氏を歓迎するメッセージが書かれた大きな横断幕が見える。

その当時、1989年の天安門事件の余波が残るなかで、中国政府は不振に陥った経済のテコ入れに必死だった。国家の指導部も各省の有力者たちも、中国本土における開発プロジェクトに李嘉誠氏の資金を呼び込み、その知名度にあやかろうと熱心に働きかけていた。それも、今は昔である。

習氏は今や、台頭する富裕大国として香港を支配下に収める中国の独裁的指導者だ。91歳になる李嘉誠氏の歓心を買おうと努めるどころか、中国政府は、反抗的な香港において同氏が責任を果たしていないと長々と論難している。

中国共産党は、この夏に始まった香港の抗議行動に、地元の有力者らが一致して対抗することを期待していたが、李氏は公平に双方に自制を求めただけだった。ある修道院に対してオンライン動画で送ったコメントのなかで、李氏は指導部に対し、若い抗議参加者に「人道的に」対応するよう求めている。

こうした李氏の態度に対する反応は激烈だった。党中央法務委員会は、「犯罪行為を匿い」「香港が底知れぬ深淵に落ちていくことを座視している」と李氏を公然と批判している。中国政府寄りの姿勢を取る香港のある労働組合は、フェイスブックに李氏を「ゴキブリの王」と揶揄する記事を投稿し、太った昆虫に同氏の顔写真を合成した画像を添えた。

中国政府を後ろ盾とする香港行政府が街頭に出た抗議参加者を厳しく取り締まる一方で、ほとんど表面化はしないものの、もう1つ別の統制強化も進んでいる。香港の有力者の影響力を抑えようとする中国政府の動きだ。

李氏をはじめとする香港の大物たちは、第二次世界大戦後における製造・不動産・金融を通じた香港の経済発展の流れを汲んで、長年にわたって実権を握ってきた。だが、2012年に中国共産党総書記に就任した習氏の台頭は、その状況を根本的に変えてしまった。ビジネス関係者やアナリストらは、香港の著名な資本家が批判を浴びたことで、新たな力関係が珍しく公然と披露されたと見ている。

李氏をはじめとする香港の有力者は政府の意向を汲んで、天安門事件以来、中国共産党の支配に対する最も深刻な挑戦となっている抗議行動を異口同音に非難しなければならない、という明確なメッセージだ。

最近の混乱の引き金となった撤回済みの逃亡犯条例案は、香港から中国本土への犯罪容疑者の引き渡しを可能にする内容だった。香港弁護士会の声明によれば、同条例案は、資産差し押さえの手段も規定していたという。これが成立していれば、香港の有力者も、習氏の反腐敗キャンペーンのなかで資産を没収されていった中国本土の富裕層と同じ運命にさらされていたことになる。

逃亡犯条例案に対する抗議行動が盛んになってからまもなく、香港富裕層の一部に、資金を香港以外の地域に移す、あるいはそれを可能とするような口座を開設する動きが見られたことを、合計数千億ドルの資産を管理するプライベートバンク関係者6人が明らかにしている。

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