最新記事

BOOKS

「私はエリートだから農協に落ち着いたのは忸怩たる思い」団塊ジュニアのしくじり人生

2019年12月2日(月)17時30分
印南敦史(作家、書評家)

そんな彼のストレス解消法は、売れている芸人をネットで攻撃することだ(もちろん匿名)。ちょっとでも何かあったら、全力で叩くという。「お互いやってること」だし、匿名だからやりたい放題なのだそうだ。


 若いし北大出てるし、元拓銀マンならなんとかなると思ったけど甘かった。あの頃は一度レールに外れると東大卒すら無理じゃないかって時代でしたよ。ほんと歴史の過渡期だったと思います。(90ページより)

こちらは北海道に生まれ、札幌の名門公立校から北海道大学〜拓殖銀行というルートを進んできたエリート。拓銀の破綻後、信販会社、農協と職を転々としてきた。


 底辺の連中からしたらしくじってないと思うかもしれませんけど、私はエリートですから、やっぱり農協に落ち着いたってのは忸怩たる思いはありますよ。食うや食わずのアホ高卒やバカ専門出じゃないんだから。あのまま拓銀が存続してたらなあと思います。(91〜92ページより)

今では「公務員になっていればよかった」と悔やんでいるが、あの頃拓銀に入れるような人間が公務員になるなんて、普通は考えないと断言する。


 俺たちの世代はどいつもこいつもろくでもない奴ばっかりだよね。団塊の悪口言ってるけど、俺達こそ日本のゴミだよ、ネットで悪口言ってるのも団塊ジュニアばっかりだっていうじゃない? 氷河期言い訳にしたクズ世代、全員死ねって感じ。そしたら俺も死ぬよ。(98ページより)

そう語るのは、20年も実家に引きこもってネットの世界に没頭している「子供部屋おじさん」。地元では神童と呼ばれ、県下一の公立高校に進学するも、大学卒業時に就職氷河期のあおりを受けることになった。

就職活動も全滅状態だったが、なんとか金融系の上場企業へ。ところがいわゆるブラック企業で、結局は辞職することになる。以来、ずっと実家に引きこもり、ゲームやアニメ三昧だ。


 地方のナンバースクールから名門大学に行ったらレールに乗って安泰だって俺の親はもちろん上の世代はみんな言ってたし、日本って国全体がそれを当たり前みたいに考えてた。それなのに俺たちの世代からは自己責任です弱肉強食ですって酷すぎる。(103ページより)

そう訴える彼にも、当然不安は訪れる。そんなとき、やはり行き着く先はネットだ。学歴系のネタサイトや掲示板に書き込み、暴れるのである。叩く対象は、主に"地元のバカなマンモス私立高校"や"底辺工業高校"出身者だ。彼らは(学歴で)自分に負けた連中だから容赦はしない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

世界の石油市場、26年は大幅な供給過剰に IEA予

ワールド

米中間選挙、民主党員の方が投票に意欲的=ロイター/

ビジネス

ユーロ圏9月の鉱工業生産、予想下回る伸び 独伊は堅

ビジネス

ECB、地政学リスク過小評価に警鐘 銀行規制緩和に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 5
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 6
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 9
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 10
    【クイズ】韓国でGoogleマップが機能しない「意外な…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中