最新記事

中東

サウジ攻撃の内幕 イランはなぜアラムコを狙ったのか

2019年11月30日(土)11時05分

次の攻撃計画

革命防衛隊を含め、イラン軍の各部門は最終的にハメネイ師の指揮下にある。最高指導者は、トランプ政権が昨年、イラン核合意を破棄したことに対して挑戦的な姿勢を保っている。

イランは2015年に国連安保理の常任理事国5カ国、そしてドイツと結んだ核合意により、数十億ドル規模の経済制裁が解除された。代わりにイランは、核開発プログラムを自制するという取り決めだった。

だが、トランプ大統領は、さらに有利な条件の合意を要求。イランは制裁が全面的に再開され、石油輸出が打撃を受け、国際的な銀行システムから排除される事態を避けるため、2本立ての戦略に乗り出した。

ロウハニ大統領が米当局者と会う意思を示す一方で、イラン政府は軍事的・技術的に能力を誇示するようになった。

ここ数カ月の間に、イランは米国の偵察用ドローンを撃墜し、ホルムズ海峡で英国のタンカーを拿捕した。また核開発プログラムを再開する宣言の一環として、合意で制限された範囲を超えるウラン濃縮活動を再開した。

アラムコへの攻撃は、こうした強硬姿勢をエスカレートさせたもので、トランプ大統領がかねてから表明していた中東からの米軍撤退を進めようとしていた矢先に起きた。

トランプ大統領がサウジの石油を守るのと引き換えに、中東の不安定化を招くような全面攻撃に出ることはない──イランはそう計算していたようだと、非営利組織「国際危機グループ(ICG)」のアリ・バエズ氏は指摘する。

「(イランの)強硬派は、トランプ氏がツイッターで虚勢を張っているだけだと信じるようになっている」と、バエズ氏は言う。「そうなると、(イランが)抵抗しても外交的・軍事的なコストはほとんど生じない」

イラン政府が米国の要求を受け入れるかどうかはまだ分からない。

アラムコ攻撃を決める最終段階で開かれた会議。イラン政府内の事情に詳しい関係者によれば、革命防衛隊のある指揮官の発言は、すでに攻撃後のことを見据えていたという。

「全能のアッラーは我らと共にある」。安全保障政策を担当する高官らを前に、指揮官はこう話したという。「次の攻撃を計画し始めよう」

(翻訳:エァクレーレン)

[東京 29日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20191203issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

12月3日号(11月26日発売)は「香港のこれから」特集。デモ隊、香港政府、中国はどう動くか――。抵抗が沈静化しても「終わらない」理由とは? また、日本メディアではあまり報じられないデモ参加者の「本音」を香港人写真家・ジャーナリストが描きます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中