最新記事

GSOMIA破棄

「愚かな決定」「偏狭なミス」米専門家らが韓国批判の大合唱

2019年11月20日(水)11時40分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

これまでにも文在寅政権には米政府高官や専門家からの懸念は伝わっていたが Edgar Su-REUTERS

<米政府系メディアのVOAは、韓国政府のGSOMIA破棄の決定について、アメリカ政府元高官や米軍元幹部、安全保障専門家らの批判の大合唱を伝えた>

米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)は韓国語版ウェブサイトで18日、米国の元高官や軍人、専門家20人を対象にアンケート調査をした結果、19人が韓国政府による日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を批判したと伝えた。

GSOMIAは韓国政府が破棄の決定を撤回しない限り、22日いっぱいで終了となる。米国政府は韓国政府の説得に全力を傾けているが、文在寅政権は日本側の輸出規制強化措置の撤回が先行すべきとの立場を変えていない。一方、日本政府がこれに応じる兆候はなく、GSOMIAはこのまま終了となる可能性が高い。

そのような状況下、米政府系のメディアがこうした企画を組むこと自体、韓国に対する圧力の一環であるように思える。実際、VOAの記事には、米専門家たちの遠慮会釈もないコメントが並ぶ。

たとえば、ワシントンDCの有力シンクタンクのひとつ、アトランティック・カウンシルのロバート・マニング研究員は次のように語る。

「GSOMIAから抜けるというソウルの決定は、韓国の安全保障を毀損し、不必要にリスクを増大させ、韓国と在韓米軍が確保すべき警告時間と米韓同盟の効率を低下させ、ひいては米国の安全保障上の利害を傷つける深刻で偏狭なミスだ」

また、エバンス・リビア元米国務省首席国務次官補代理は「韓国のGSOMIA破棄決定は非常に不幸で無分別だ」と批判。ミッチェル・リース元国務省政策企画局長は「GSOMIA終了決定は近視眼的な行動で、韓国の安保を弱体化させるだろう」と述べている。

きわめつけは、マイク・マクデビッド海軍分析センター先任研究員の一言かもしれない。

「韓国の安全保障の見地から言って、(GSOMIA破棄は)長期にわたり否定的な影響を残す愚かな決定だ(foolish decision)」

元海軍少将のマクデビッドは、海上自衛隊の優れた対潜能力に着目し、この分野で日韓が協力できなくなることによる損失を、外交的修辞を交えず惜しんでいるようだ。

これらの発言は、メディアの側が誘導して引き出せる性質のものではなく、米国の専門家たちが本気で憂慮していることが伝わってくる。ちなみにこれ以前にも、特に文在寅大統領やその側近に対し、「納得いかない」「理解できない」とする米国高官や専門家たちの声はいくつも伝わっていた。その言葉の中には、今回のVOAのアンケートにも増して、深刻な響きを持つものもあった。

参考記事:「何故あんなことを言うのか」文在寅発言に米高官が不快感

参考記事:「韓国外交はひどい」「黙っていられない」米国から批判続く

文在寅政権はその時点から、米国側とのコミュニケーションの改善を図るべきだったのではないか。そうしていれば、GSOMIA破棄という何ら得るところのない判断ミスを犯さずに済んだかもしれない。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

マスク氏が訪中、テスラ自動運転機能導入へ当局者と協

ワールド

ハマス代表団、停戦協議でカイロへ 米・イスラエル首

ワールド

バイデン氏「6歳児と戦っている」、大統領選巡りトラ

ワールド

焦点:認知症薬レカネマブ、米で普及進まず 医師に「
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中