最新記事

ブレグジット

英ジョンソン首相、総選挙で議席失う恐れも 選挙区民は愛憎半ば

2019年11月7日(木)10時13分

12月12日に決まった英総選挙で、ジョンソン首相は自らの選挙区で野党候補との接戦を強いられる可能性がある。写真は10月29日、ダウニング街で撮影(2019年 ロイター/Toby Melville)

12月12日に決まった英総選挙で、ジョンソン首相は自らの選挙区で野党候補との接戦を強いられる可能性がある。仮に全体として与党保守党が勝利したとしても、ジョンソン氏自身が敗れれば首相を退任せざるを得ず、英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)の行方も変わるかもしれない。

ジョンソン氏の選挙区アクスブリッジはロンドンの端に位置するベッドタウン。同氏は1924年以来の英首相の中で、直近の選挙で野党候補との得票差が最も小さかった。

ジョンソン氏にとって不安の種は、ブレグジットへの抗議や、2015年にアクスブリッジで落下傘候補として出馬したことへの反発から、伝統的な保守党支持者が同氏に投票しない事態だ。

ジョンソン氏の最大の対抗候補は、野党労働党から出馬するアリ・ミラニ氏(25歳)。イラン生まれで5歳の時に英国に来た同氏は、公営住宅で育ち、友達をナイフで殺され、母親がホームレスになった経験を持つ。

ミラニ氏は、貧しい生い立ちを前面に出して戦えば勝機は十分あると信じている。ジョンソン氏は有権者から「この選挙区を首相官邸への踏み台にした」と見られており、「ここに住んでも働いてもおらず、地元に縁もゆかりも無い」とミラニ氏はロイターに語った。

賭け屋のデータによると、ジョンソン氏が選挙区で負ける確率は35%。学生や若い家族が大勢流入して人口動態が変わった上、人種的マイノリティーの有権者数も増え、ジョンソン氏に不利になっている。

ただ、アクスブリッジで労働党候補が勝った前例はなく、英国で現職の首相が議席を失ったこともない。

アクスブリッジの有権者に1日がかりで話を聞いた感触では、選挙は接戦となりそうだ。ジョンソン氏への愛憎がいかに半ばしているか、ブレグジットがいかに国を分断し続けているかも鮮明になった。

ジョンソン氏の命運を握りそうなのはテレビ販売員として働くスニル・ポールさん(43歳)のような有権者だ。「ブレグジットはめちゃくちゃだ。国民が結束すべき時に国を分断している。それに彼(ジョンソン氏)が地元民のために何かしてくれたのを見たことがない。時々顔を出すが、地元の問題には関わらない」とポールさんは語る。

ビジネスマンのギャレス・カーワンさん(42歳)も、ジョンソン氏は地元の病院や学校の改善に興味を示さないと指摘する。「ボリス・ジョンソンはアクスブリッジというよりオックスブリッジ(オックスフォード大、ケンブリッジ大出身のエリート)だ」

反面、自動車販売店を営むロバート・ライトさんにとって、ジョンソン氏はブレグジットを断行できる救世主と映る。「ボリスなら他の人々ができないこともやれる」とライトさんは話した。

(Andrew MacAskill記者)

[アクスブリッジ(英イングランド) ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20191112issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

11月12日号(11月6日発売)は「危ないIoT」特集。おもちゃがハッキングされる!? 室温調整器が盗聴される!? 自動車が暴走する!? ネットにつなげて外から操作できる便利なスマート家電。そのセキュリティーはここまで脆弱だった。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏の核施設破壊発言、「レッドライン越え」=

ビジネス

NY外為市場=ドルまちまち、対円では24年12月以

ビジネス

米国株式市場=S&P500ほぼ横ばい、月間では23

ワールド

日本と関税巡り「率直かつ建設的」に協議=米財務省
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中