最新記事

環境

急増する欧米からインドへの廃タイヤ輸出 国際的な規制の甘さが後押し

2019年10月28日(月)18時27分

オーストラリアとニュージーランドから持ち込まれたタイヤ。8月7日、マレーシアのジョホール州で撮影(2019年 ロイター/Edgar Su)

インドのナビプール村では、日が暮れると焼却炉が動き出す。西側の国々から持ち込まれたタイヤが燃やされ、刺激臭のある煙が立ちこめ、土はすすで真っ黒になる。

インド北部に位置するナビプール村が静かな農村だったのは、それほど昔の話ではない。だが、今では少なくとも12基の焼却炉が設置され、絶え間なく持ち込まれるタイヤを燃やし、熱分解と呼ばれるプロセスで低質油を生産している。

国際連合(UN)の税関データによれば、廃タイヤの取り引きは過去5年間で倍増している。輸入国は主としてインドやマレーシアといった新興国だ。

一方、最大の輸出国は英国、これにイタリアと米国が続く。国連のデータによれば、輸入国として圧倒的な首位がインドであり、グローバルな総輸入量に占める比率は、5年前の7%から昨年は32%へと増大している。

廃タイヤの多くは、排出物・廃棄物処理に関する規制をクリアしたリサイクル業者に送られる。だがインド当局によれば、そうした規制に適合しない非正規の熱分解施設を相手にする取引も膨大にあるという。

ロイターは5月、マレーシア南部の大規模汚染が、熱分解処理に携わる企業に関連していることを突き止めた。

地元当局や医療の専門家によれば、国際的な廃タイヤ貿易の増加が、処理施設のある地域を汚染している。ロイターは非公開の税関データのほか、数十人に上る業界関係者へのインタビューを通じて、これを確認した。

多くの先進国にとって、廃タイヤを国内でリサイクルするよりも輸出するほうが安上がりである。ゴム製品廃棄物の国際貿易は、2013年の110万トンから2018年には200万トン近くに増大した。これはタイヤ2億本分に相当する。

こうした貿易量の増加は、インドなどにおける産業炉用燃料の旺盛な需要、価格が低い中国製の熱分解設備の登場、国際的な規制の甘さにも支えられている。

処理設備はネットで買える

廃棄物の輸出入を規制するバーゼル条約の定義では、廃タイヤは有害廃棄物に含まれていない。つまり、輸入国による指定がない限り、国際的な貿易に対する制約がほとんどない。

中国や米国を含む大半の国では、廃タイヤの大多数は国内で処理されており、埋め立て地に捨てられるか、セメントや製紙工場の燃料などとして再利用される。

熱分解処理の支持者は、廃タイヤを処分し有益な燃料に転換する方法としては、このプロセスは環境への負荷が相対的に少ないと話している。だが、さまざまな化学物質や合成ゴム、天然ゴムで構成される廃タイヤの燃焼に伴う排出物の抑制や、残った物質の処理にはコストが掛かり、大規模な設備で収益性を確保するのは難しい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、サウジへのF35戦闘機売却方針を表明 

ビジネス

ノボ、米で「ウゴービ」値下げ CEO「経口薬に全力

ビジネス

米シェブロン、ルクオイルのロシア国外資産買収を検討

ビジネス

FRBウォラー理事、12月利下げを支持 「労働市場
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中