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躍進のラグビー

ラグビー場に旭日旗はいらない

DON’T SHOW THE FLAG

2019年10月23日(水)16時50分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

旭日旗について、私の考えは政治学者の木村幹(神戸大学大学院教授)と近い。韓国政治を研究する木村は、朝日新聞のインタビューに「旗はシンボルであり、使う人の意図によって意味は変わる」と指摘している。フロンターレや、日本政府は旭日旗そのものに政治的意図はないと主張する。国内なら辛うじて、その理屈も通るだろう。

しかし、大事なのは文脈だ。今の日本でどういうときに旭日旗が振られているかが重要だと木村は言う。私も取材で目にしたことがあるが、大々的に振られているのは、ヘイトスピーチ団体の反韓・嫌韓デモの現場だ。「韓国は敵」「殺せ」というデモの中で、存在感を発揮してきたのが旭日旗である。「こうした事実は今では海外でもよく知られているので、たとえ、その意思がなくても、旭日旗を振ることで間違ったメッセージを送ってしまう可能性は常にあります」(前掲、木村インタビュー)

文脈がある旗をわざわざ持ち込んで、振る必然性はどこにもない。ラグビーワールドカップで旭日旗の持ち込みが禁止されていないのは、持ち込んでもよいという意味ではなく、これまで問題にならなかったからだ。

冒頭にも述べたように、ラグビーには選手と観客に共有されている一定のマナーがある。サッカーが会場内で差別的な行動が起きた場合、過去の処分を踏まえて積極的に制裁を科すとするならば、ラグビーは「言われなくても、差別的な行動はやらないのが当然」という前提に立ち、観客に自主コントロールを求めていると解釈してもいい。

これはどちらが優れているか、という問題ではなく、そもそも代表とは何かという定義に起因している。ラグビーは他の多くのスポーツが採用する国籍主義でなく、他国出身者も一定の条件をクリアすれば代表に選出できる所属協会主義を採用している。多様なルーツを持つチームが集まる場に、間違ったメッセージを伝える旗を会場に持ち込むこと自体が想定されていなかった、と言ってもいい。

旭日旗について書くと、日本の右派から必ず出てくるのが「旭日旗は訪日観光客に広がっている」「外国人のサポーターも旭日旗デザインのグッズを身に着けている」からそちらを批判せよという主張だ。これは半分は当たっている。持ち込みに気が付いた観客がもっと指摘してもいいだろう。もっとも無知ゆえ、あるいは単なるデザインとして旭日旗を愛好する外国人観光客の存在が、旭日旗を持ち込んで間違ったメッセージを送ることを正当化する理由にはならないのは言うまでもない。

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