最新記事

躍進のラグビー

ラグビー場に旭日旗はいらない

DON’T SHOW THE FLAG

2019年10月23日(水)16時50分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

日本大会が成功した証左

スコットランド戦は、試合前日に直撃した台風19号の被害が拡大するなかでのゲームでもあった。開始前には時間とともに増え続ける被災者、被災地への黙禱がささげられた。会場の横浜国際総合競技場が敷地内にある新横浜公園は鶴見川流域の多目的遊水地であり、洪水被害を低減させる機能を担っている。何事もなかったかのように開かれた試合の裏側には、ボランティアを含め名前の出てこない関係者の尽力があった。これも多くの称賛を集めた。

日本代表ヘッドコーチのジェイミー・ジョセフは試合当日、台風被害を選手たちに伝えたという。キャプテンのリーチマイケルが言うように「この試合は私たちだけのものじゃないと、選手たちは思っていた」のである。

今大会で日本代表は、誰もが描くことができない、想像以上のドラマの主役となった。日本中がラグビーに熱狂し、大会開始前の静寂が嘘のようなお祭り騒ぎが起きた。スコットランド戦のテレビ視聴率は瞬間最高で53.7%に達し、電車の中、飲食店、あるいは会社で人々がラグビーを話題に挙げる。これ自体は、紛れもなく日本開催が成功した証左と言えるだろう。

magSR191023rugbyflag-2.jpg

敵味方一緒に応援するのがラグビーのスタイル(10月12日、福岡) PETER CZIBORRA-REUTERS

旭日旗が振られてきた「文脈」

成功と同時に、ラグビー憲章の精神に関わる課題が浮かび上がっていることも指摘しておく必要がある。複数の日本戦の観客席で目にした旭日旗だ。あらかじめ前提を整理しておくと、この大会で旭日旗の持ち込みは禁止されておらず、現状は試合会場で散見される程度で、大きく目立っても深刻な問題になってもいない。では、なぜ指摘するのか。それは、誤ったメッセージを発信しかねないと懸念するからだ。

まず、他のスポーツで旭日旗がどのような扱いになっているかを押さえておこう。2017年、アジア・チャンピオンズリーグに出場した川崎フロンターレは韓国チームの水原三星と対戦した際、サポーターが掲げた旭日旗をめぐりアジアサッカー連盟(AFC)から無観客試合、罰金などの処分を受けた。「旭日旗が差別的メッセージに当たる」というのが主な理由だった。

韓国のチームだから問題視した、AFCの中で韓国の声が大きいだけだという指摘は当たらない。フロンターレ側の「一部地域や相手の主張で、差別的と判断されるのは不当」という主張はAFCに退けられた。フロンターレはスイス・ローザンヌにあるスポーツ仲裁裁判所に訴えることもできたが、それは行わなかった。「判断が覆る可能性は低い」と判断したからだ。政治的な意図はない、という言い分は相手が韓国かどうかにかかわらず、スポーツの世界では国際的には通用しない。もう少し、補足しておこう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国外相、イラン指導者殺害や体制転換の扇動「容認で

ワールド

OPECプラス8カ国、4月に増産開始で合意 イラン

ワールド

イラン首都照準に2日目攻撃、トランプ氏は反撃に警告

ワールド

プーチン氏、ハメネイ師殺害は道徳規範と国際法に違反
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作曲家が「惨めでもいいじゃないか」と語る理由
  • 4
    「本当にテイラー?」「メイクの力が大きい...」テイ…
  • 5
    【銘柄】「三菱重工業」の株価上昇はどこまで続く...…
  • 6
    米・イスラエルの「イラン攻撃」受け、航空各社が中…
  • 7
    【銘柄】「ファナック」は新時代の主役か...フィジカ…
  • 8
    「高市大勝」に中国人が見せた意外な反応
  • 9
    今度は「グリンダが主人公」...『ウィキッド』後編の…
  • 10
    最高指導者ハメネイ師死亡(イラン発表)、トランプ…
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 4
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 5
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 6
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 7
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 8
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 9
    住宅の4~5割が空き家になる地域も......今後30年で…
  • 10
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中