最新記事

日韓関係

日本と韓国の危険なゲームが世界経済を殺す

2019年10月16日(水)16時30分
イ・ジョンファ(高麗大学アジア問題研究所所長)

両者の見つめる先が国内世論だけでは問題は解決しない TT NEWS AGENCYーREUTERS (MOON), TOMOHIRO OHSUMIーPOOLーREUTERS (ABE), PHOTO ILLUSTRATION BY YUKAKO NUMAZAWAーNEWSWEEK JAPAN

<日韓対立が続けば両国経済にダメージを与えるだけでなく、世界の貿易システムも傷つけることに>

日韓関係が一筋縄ではいかないのは今に始まった話ではない。しかし、現在の両国関係は1965年の国交正常化以来、おそらく最悪の状態にある。

発端は7月、日本政府が半導体や有機ELパネルの製造に必要な3品目の韓国への輸出管理を強化したことだ。北朝鮮に輸出され軍事転用されることを防ぐためだとされるが、韓国政府はこの措置を不当として非難。消費者レベルでは日本製品の不買運動も起きた。

韓国政府は管理強化を、三菱重工業に韓国人元徴用工への賠償を命じた18年の韓国最高裁判決に対する意趣返しとみている。日本政府は賠償問題は解決済みとしてきたからだ。

さらに日本政府は8月には輸出手続きで優遇対象とする「ホワイト国」から韓国を除外。日本の輸出事業者は韓国への輸出に日本政府の個別許可を要するようになった。韓国は日本の輸出管理強化は国際ルール違反だとしてWTOに提訴し、自国のホワイト国リストから日本を外した。軍事機密を共有するための日韓秘密情報保護協定(GSOMIA)も破棄を通告した。

こうした外交関係の亀裂による経済への影響は既に顕著だ。8月には韓国の対日輸出は前年比で6.2%減少。韓国での日本車売り上げは57%落ち込み、韓国からの訪日旅行者数は48%も急減した。

対立はさらに激化する恐れもある。18年の判決で差し押さえられた三菱重工の資産が売却されれば、日本はより厳しい報復措置を取るだろう。この場合、日韓関係のみならず、世界経済へも悪影響が及ぶ事態は避けられない。

アメリカは当てになるか

韓国にとって日本は金額別で5番目に大きい輸出相手国で、日本にとって韓国は3番目だ。日本と韓国はそれぞれ世界で4番目、5番目の輸出大国、かつハイテク産業のサプライチェーンにとって不可欠な存在でもある。米中貿易戦争などで世界が保護主義に脅かされているところに日韓の貿易摩擦が加われば、世界経済は混乱するばかりだ。

日韓両国は第二次大戦後の多国間貿易システムの恩恵を多く受けている。にもかかわらずそのシステムを傷つけたとあれば、批判は免れない。6月のG20大阪サミットで各国の首脳たちが強調したように、貿易は「自由、公平かつ無差別」でなければならないのだ。

しかしこうした外部からの批判に耳を貸すより、譲歩を嫌う国内世論のほうが双方の政府にとっては重要らしい。事実、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と日本の安倍晋三首相は愛国主義と互いへの根強い不信感をたきつけることによって、強硬姿勢への支持を集めている。

例えば、日本経済新聞の世論調査によると、日本政府の対韓輸出管理強化への支持率は67%に及んでいる。韓国の世論調査専門機関リアルメーター社の調査では、韓国の市民の半数以上が不買運動に参加しており、47.7%がGSOMIA破棄を支持している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中