最新記事

シリア情勢

米軍撤退で追い詰められたクルド人がシリア、ロシアと手を組んだ

Kurds Strike Deal with Putin and Assad in Syria as Trump Criticized

2019年10月15日(火)15時50分
タレク・ハダド

トルコの攻撃を口実に、シリアの虐殺者・アサドの軍も動き始めた(写真はアサドとシリア兵。2018年3月18日、シリアのグータで) SANA/Handout/REUTERS

<「トルコ軍に皆殺しにされるぐらいなら」と妥協に踏み切ったクルド人勢力。トランプの裏切り外交が生んだ悲劇だ>

シリア北東部でトルコの越境攻撃を受けているクルド人勢力が、トルコ撃退のためにシリアのバシャル・アサド大統領と、その後ろ盾のロシアと手を組んだ。ドナルド・トランプ米大統領が、ともにIS(自称イスラム国)と戦ってきたクルド人を見捨てて駐留米軍を引き揚げると決めたからだ。怒ったクルド人がIS捕虜収容所の管理を放棄したため、少なくとも750人のIS戦闘員が逃亡したことも分かっており、トランプに対する批判の声が高まっている。

トランプは10月6日にシリア北東部からの米軍撤退を発表したが、クルド人勢力に対するトルコの軍事作戦を事実上容認したこの決定については、IS掃討で長年協力してきたクルド人勢力に対する裏切りだと非難の声が上がっていた。また数多くの専門家やアナリストが、米軍が撤退すればクルド人勢力はトルコに対抗するためアサドやロシアと手を組むしかなくなると警告していた。

その後トルコがシリアとの国境を超えてクルド人勢力に対する攻撃を開始すると、クルド人武装勢力「シリア民主軍(SDF)」はまさにそのとおりの行動に出た。アメリカに見捨てられ、皆殺しの目に遭う可能性に直面して、ほかに選択肢は残されていなかった。

<参考記事>クルド女性戦闘員「遺体侮辱」映像の衝撃──「殉教者」がクルド人とシリアにもたらすもの
<参考記事>安田純平氏シリア拘束のもう一つの救出劇「ウイグルチャンネル」

「クルド人虐殺よりはまし」

「アサドとロシアと手を組むという妥協な痛みの伴うものになる」と、SDFのマズローム・アブディ最高司令官は米フォーリン・ポリシー誌への寄稿で認める。「だがクルド人の虐殺を許すよりはましだ」

13日に結んだ合意の下、クルド人勢力はこれまで支配してきた国境近くの町、マンビジとコバニをシリア政府に引き渡す。一方、シリア国営メディアは、「トルコによるシリアの領土への侵略に立ち向かうため」にシリア軍が北部に向かっていると報じた。

シリア軍は北東部全域に展開される見通しで、北部を実効支配するクルド人組織、西クルディスタン移行期民政局(通称ロジャヴァ)も13日夜に発表した声明の中でこれを認めている。

「トルコによる攻撃を阻止・撃退するために、シリア政府と合意を結んだ。国境地域を守り、シリアの主権を守るために、シリア軍をトルコとの国境沿いに展開させる内容だ」とロジャヴァは声明で述べた。

さらに声明はこう続けた。「(シリア軍の配備は)シリア軍がトルコによる侵略に立ち向かい、トルコ軍と彼らが雇った外国人部隊が侵入した土地を解放するのを支援することが目的だ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アップル、新たなサイバー脅威を警告 84カ国のユー

ワールド

イスラエル内閣、26年度予算案承認 国防費は紛争前

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ワールド

EU、Xに1.4億ドル制裁金 デジタル法違反
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 7
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 8
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 9
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中