最新記事

テロ

インドネシア、ウィラント調整相が暴漢に刺され負傷 IS同調者のテロか

2019年10月10日(木)20時21分
大塚智彦(PanAsiaNews)

刺されたインドネシアのウィラント調整相が抱きかかえられ搬送されている様子 Antara Foto Agency - REUTERS

<ジョコ・ウィドド大統領の再選2期目のスタートを前に、イスラム過激派のテロが再び活発化するか?>

インドネシアのウィラント調整相(政治・法務・治安担当)が10月10日午前11時30分ごろ(日本時間午後1時半ごろ)、訪問先のジャワ島バンテン州で暴漢に襲われ刃物で腹部を刺され負傷した。ウィラント調整相は直ちに現場からヘリコプターでジャカルタ市内の病院に運ばれ手当てを受けているが命には別条がない模様だ。

バンテン州警察は襲撃現場でシャハリール容疑者(31)とその妻のフィトリ容疑者(21)を殺人未遂の疑いで逮捕、取り調べを続けているが、男は中東のテロ組織「イスラム国(IS)」に忠誠を誓うインドネシアのイスラム教テロ組織「ジェマ・アンシャルット・ダウラ(JAD)」に関係している可能性があり、単なる襲撃事件ではなくテロとの見方が強まっている。

10日、バンテン州ラブアンのプルワラジャにあるイスラム教学校を訪問したウィラント調整相は、車を降りて出迎えの人と握手をしはじめた直後に、警察高官の右手から突然現れたシャハリール容疑者に鋭い刃物で腹部を2回刺されたという。やはり現場で刃物を所持していた妻のフィトリ容疑者もその場で逮捕された。武器は鋭利なハサミの刃のようなもので男女が1本ずつ所持していた。現地のメディアは「忍者の武器」と報道しているという。

ウィラント調整相は直ちにジャカルタの病院にヘリコプターで空輸され入院、緊急手術を受けているが、生命に危険はないと医師団は話している。

人権侵害の疑い残る元国軍司令官

ウィラント調整相は1998年に民主化運動の高まりを受けて崩壊したスハルト長期独裁政権を支えた最後の国軍司令官で、最終的にスハルト元大統領に「家族はお守りしますので辞任を」と引導を渡した人物といわれている。

軍を退役後は政党「ハヌラ党」指導者として政界に転じ、ジョコ・ウィドド政権では政治・法務・人権担当の調整相として国軍人脈を生かして治安維持を主導してきた。

ただ、その一方で現役軍人時代に東ティモールの独立運動活動家への弾圧や民主化を求める学生、活動家などに対して数々の人権侵害事件に関わったとされている。

国際社会や米政府の指摘を受け、民主化後に人権侵害容疑などで捜査対象となったが、証拠不十分などで責任追及はうやむやになっている。

人権擁護団体や行方不明の民主活動家の家族、支援者などは機会があるたびにウィラント調整相の人権侵害容疑の捜査再開をジョコ・ウィドド政権に対して訴えているが実現していない。

こうしたなか、ジョコ・ウィドド大統領の再選2期目の次期内閣組閣に関して「法務・治安を担当する閣僚は軍人出身者ではなく文民を起用するべきだ」と,
暗にウィラント調整相の続投を牽制するという異例の動きも出ていた。


20191015issue_cover200.jpg ※10月15日号(10月8日発売)は、「嫌韓の心理学」特集。日本で「嫌韓(けんかん)」がよりありふれた光景になりつつあるが、なぜ、いつから、どんな人が韓国を嫌いになったのか? 「韓国ヘイト」を叫ぶ人たちの心の中を、社会心理学とメディア空間の両面から解き明かそうと試みました。執筆:荻上チキ・高 史明/石戸 諭/古谷経衡

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

三井住友FG、インド大手銀行に2400億円出資 約

ビジネス

米国は最大雇用に近い、経済と労働市場底堅い=クーグ

ビジネス

米関税がインフレと景気減速招く可能性、難しい決断=

ビジネス

中国製品への80%関税は「正しい」、市場開放すべき
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..最新技術で分かった「驚くべき姿」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 5
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 6
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 7
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 8
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 9
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 10
    韓国が「よく分からない国」になった理由...ダイナミ…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中