最新記事

テロ

インドネシア、ウィラント調整相が暴漢に刺され負傷 IS同調者のテロか

2019年10月10日(木)20時21分
大塚智彦(PanAsiaNews)

対テロ強硬策への反発か

そうした時期に起きたこの日のウィラント調整相襲撃事件だけに、当初は政治的な動機を取りざたする動きもあった。

しかし警察の捜査で容疑者がISと関連したJADという地元テロ組織メンバーである可能性が濃厚となり、人権問題追及とは別のテロ事件としての側面が強くなってきた。

ウィラント調整相は治安担当調整相として、また元国軍司令官として国内テロ事件の捜査やパプア地方での「独立を問う住民投票実施」などで強い指導力で断固たる対処を訴えてきた。

庶民派として国軍に強力なネットワークを持たないジョコ・ウィドド大統領にとっては「治安維持政策」では頼みの綱がウィラント調整相であり、大統領の信頼を背景にこれまで国軍、警察、諜報機関に一定のにらみを効かせてきたことも事実。

こうした対テロ強硬策にJADなど国内テロ組織は壊滅に近い打撃を被っているとされ、今回の襲撃の背景にはそうしたテロ組織の危機感があったとの見方もでている。

インドネシアにはかつて国際テロ組織「アルカイーダ」の影響を受けた東南アジア地域のテロネットワーク「ジェマ・イスラミア(JI)」があったがその後衰退。そしてJIの分派としてISの影響を受けたJADや「ジェマ・アンシャルット・タヒド(JAT)」、「ネガラ・イスラム・インドネシア(NII)」、「東インドネシア・ムジャヒディン(MIT)」などのテロ組織が活動しているが、2018年5月に第2の都市スラバヤでキリスト教の3教会を狙った爆弾テロ事件以降大きなテロ事件は起きていない。

今回のウィラント調整相襲撃がテロ事件である可能性が極めて高いことから20日に予定される大統領就任式に向けた警戒警備が格段と強化されることは間違いなく、ジョコ・ウィドド大統領の2期目は厳戒態勢の中でのスタートとなりそうだ。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 6
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 9
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中