最新記事

ラオス

道もクルマも家も飲み込まれ... 台風被害ラオス、救援訴えた女性は政府批判で逮捕

2019年9月19日(木)20時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

人権団体が相次ぎ抗議

1922年に発足した国際的非政府人権団体の連合体である「国際人権連盟(FIDH)」はサヤブリさんの逮捕について「言論の自由の権利に反する受け入れがたいことである。彼女は単に自分の地域への支援を求めただけであり、逮捕は信じがたい行為である」とRFAに対して述べた。

また人権団体「アムネスティ・インターナショナル」も「サヤブリさんは政府を転覆しようとか中傷しようと意図したわけではない」として即時釈放を求めているという。

タイで活動中のラオス人活動家が不明に

ラオスの人権活動家については当局の追及を逃れるためにタイで活動中だったラオス人活動家の男性オド・サヤボン氏(34)が8月26日にタイ・バンコク市内のアパートで同居者に「夕食に行ってくる」と外出して以降行方不明になった事件も起きている。

人権問題を主に伝えているブナール・ニュース(ネット版)やRFAの報道によると、オド氏は6月16日にバンコクで開かれた集会に参加するなど、ラオスで捕らわれている政治犯の釈放や人権状況改善を訴える活動をしていたという。

オド氏の知人はメディアに対し「行方が分からなくなった当日の午後6時ごろにサヤボン氏から携帯電話のメッセージで夕食の準備に関する連絡があり、午後11時まで待ったが来なかった」と伝えており、突然姿が消え、その後携帯電話もつながらなくなり行方不明となっている状況を明らかにした。

オド氏は2017年4月にラオスで逮捕されている人権活動家3人の釈放を政府に求める活動に加えて、2012年12月15日に首都ビエンチャン郊外で警察車両に身柄を拘束されて以来行方不明となっている仲間の活動家の捜索も当局に要求していたという。

知人や同じタイ在住のラオス人活動家らはオド氏の失踪はラオス政府への批判と無関係ではないとしているが、シンガポールの「チャンネル・ニュース・アジア(CNA)」に対してタイのコンチープ国防省報道官は「タイとしてはオド氏の件は一切関知していないが、タイは海外の人権活動家を弾圧することはない」として関与を否定している。

一党独裁、報道の自由もないラオス

ラオスは人民革命党による1党独裁国家でマスコミは新聞、テレビなどすべてが政府系で、いわゆる報道の自由は存在せず、人権問題や民主化に関する活動家はネットでの発信を行っているが、治安当局の監視も厳しくタイなど国外で活動しているケースも多い。

フランス・パリに本拠を置く「国境なき記者団(RSF)」が毎年4月に公表している各国の報道自由度ランキングでラオスは180カ国中171位にランクされ、176位のベトナムと同様に東南アジアでは報道自由度が極めて低い国に位置付けられている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中