最新記事

医薬品

インド製ジェネリック薬品の恐るべき実態

FROM INDIA WITH LIES

2019年9月5日(木)18時30分
キャサリン・イバン(ジャーナリスト)

この試験的な抜き打ち査察が実現すれば、FDAはついにインドの製薬工場の真実の姿を知ることになる。FDAが外国で、事前に予告することなく外国企業に立ち入り検査を行うのは初めてだった。

最初の抜き打ち査察は、2014年1月のある月曜日に実施することになった。場所は、インド北部にあるランバクシーの工場。そこではかつて、高脂血症治療用のジェネリック薬にガラス片が混入するという事故があった。

この工場の実態を査察チームに見せてやりたい。アグラワルはそう思っていた。相手に気付かれている恐れがあったので日程を早め、飛行機の手配もひそかに変更した。

そして日曜日の早朝、FDAの査察官2人が不意に工場を訪れ、品質管理ラボに急行した。ドアを開け、目にした光景に彼らは唖然とした。なんと大勢の職員が机に向かい、必死で書類を改ざんしていた。もちろん、翌月曜日に査察チームが来るのを予期してのことだ。偽造が必要な文書をリストアップしたノートも見つかった。

やがて会社の幹部が駆け付け、踏み込んだ男たちがFDAの人間だと聞くと、職員たちは慌てて書類をデスクの引き出しに詰め込んだ。この抜き打ち査察で初めて見えたものはたくさんある。サンプル準備室は窓が閉まらず、外にあるゴミの山からハエの大群が室内に入り込んでいた。後にFDAはこの工場に警告書を送達し、製品の対米輸出を禁じた。

薬価高騰を恐れて打ち切り

理論上、査察の事前通知の有無は結果に影響しない。査察があろうとなかろうと、製薬会社は常に製造工程を正しく管理している。それが大前提となっているからだ。しかし、インドでは違った。FDAの抜き打ち査察で、それまで隠されていた不正の山が暴かれた。査察官たちは何年も前からあった偽装システムを発見した。安全な薬を製造するためではなく、完全な「結果」を見せるためにつくり出されたシステムだ。

事前に日程が分かっていれば、工場側は低賃金の労働者を動員して何でも改ざんしてしまう。「週末の2日もあれば新しい建物だって建ててしまう」。査察官の1人はそう言った。ある工場の無菌室には鳥が侵入していた。別の施設では、室内が無菌状態であることを確認する検査結果の書類はあったが、検査に使ったはずのサンプルがなかった。検査は行われていなかったのだ。全てがごまかしによって成立していた。

アグラワルの指揮下で抜き打ち査察は各地で行われ、次々に不正行為が発見された。その結果、FDAが出す警告書の数は急増した。取引停止を含む厳重処分も6割ほど増えた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:高級品業界が頼る中東富裕層、地政学リスク

ワールド

トランプ氏、イラン制裁解除計画を撤回 必要なら再爆

ワールド

トランプ氏、金利1%に引き下げ希望 「パウエル議長

ワールド

トランプ氏「北朝鮮問題は解決可能」、金正恩氏と良好
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 3
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急所」とは
  • 4
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 5
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 6
    富裕層が「流出する国」、中国を抜いた1位は...「金…
  • 7
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 8
    伊藤博文を暗殺した安重根が主人公の『ハルビン』は…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 4
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 5
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 10
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中