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丸山ゴンザレスだからこそ書けた世界の裏社会ルール

2019年9月4日(水)16時15分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<『クレイジージャーニー』でもお馴染み、スラム街の取材経験豊富なジャーナリストが明かす、私たちが知らない「悪いやつら」や犯罪組織の特徴>

『世界の危険思想――悪いやつらの頭の中』(丸山ゴンザレス著、光文社新書)の著者は人気番組『クレイジージャーニー』(TBS系)でお馴染みの「危険地帯ジャーナリスト」。スラム街など過酷な環境に躊躇なく踏み込んでいく姿をテレビで目にした方は、決して少なくないはずだ。

著者は本書において、そのような実体験に基づき、悪事に手を染める人々の思考について考えを巡らせている。殺人犯、殺し屋、強盗、武器商人、マフィア、ギャング、麻薬の売人、薬物依存者、集団暴行する人、悪徳警官など、さまざまな国籍、職業の「悪いやつら」に話を聞き、悪意や危険な行動の根っこにある(と思われる)思考を明らかにしようとしているのである。

スラムを取材し、その内容をルポとして発表するなかで、気付くことがあるのだと著者は言う。それは、スラムと裏社会を同一視する人が多いこと。「危険地帯=スラム」と捉えると誤解が生まれやすいというのだが、確かに私も、少なからずそう感じていたかもしれない。


 たしかに貧困層が犯罪組織と結びつきやすいという事例は、中南米からアメリカ全土で勢力を拡大するMS-13のような凶悪ギャング組織など、世界各地で見られる。だが、実際にスラムと裏社会を取材している立場からすれば、両者はまったく別の存在だと断言できる。(58ページより)

端的に言えば、エリアやコミュニティーのことを指すのがスラム。つまり、犯罪者の集団である裏社会の「組織」とは種類自体が異なるということだ。だとすれば、なぜ両者は同一視されてしまいがちなのか?

それは、スラムに犯罪組織の構成員が住んでいることが多いからだというのである。言われてみればその通りで、スラムは犯罪をする人を生み出しやすい環境なのだろう。とはいえ当然のことながら、スラム街に暮らす人々の価値観も多種多様。

ギャングメンバーにも喜怒哀楽はあり、家族だっているかもしれない。そういう意味では我々と同じなので、先入観だけを頼りにスラムに暮らす人を犯罪と結びつけてしまったとしたら、スラム街の本質を見誤りかねないということである。

裏社会が警察の下働き的な扱いになっている国もある

その一方、犯罪組織には犯罪組織ならではの特徴的な考え方があるのも事実。そこで著者は本書において「裏社会ルール」を紹介している。それは、「縄張り」「ボスへの忠誠心(裏切りの禁止)」「アンチ警察」の3つだ。

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