最新記事

インドネシア

インドネシア首都移転のあまりに甘い皮算用

2019年9月4日(水)18時00分
ジョシュア・キーティング

ジョコ大統領(中央)はジャカルタからの首都移転計画を力強く発表したが SIGID KURNIAWAN-ANTRA FOTO-REUTERS

<ジャカルタからボルネオ島の未開発地域に移すというが世界の先例を見れば計画はプラスにならない>

公害や交通渋滞が深刻で、地盤沈下が急速に進むインドネシアの首都ジャカルタ。ジョコ大統領は先頃、問題だらけのこの街の首都機能を、ボルネオ(カリマンタン)島の未開発地域に移転する計画を発表した。

ジャカルタからの首都移転は、長期的に見れば理にかなっている。気候変動の影響をもろに受けそうな都市であることを考えても、当然の流れだろう。

だがボルネオに首都を築くために新たな開発を行ったのでは、温暖化対策にプラスにならない。既にボルネオでは、森林破壊が大きな懸念を生んでいる。

不安材料はほかにもある。約3000万人が暮らす大都市圏から、ほとんど何もない場所に首都機能を移転することが、世界で4番目に人口が多い国家の運営に影響を及ぼさないはずはない。インドネシアはこの点を十分に考慮しているだろうか。

新首都の建設は、政変を機に新政府が旧体制を脱する象徴として行われることが多い。首都をゼロから造るのは名案に思えるが、政府の腐敗体質が一緒に「移転」してくることもある。

ジョコがこの計画を遂行するなら、首都を新たに建設してきた他国の足跡をたどることになる。過去1世紀を振り返ると、そうした例は人口の多い途上国にほぼ限られる。

隔絶した首都=悪政?

トルコは1923年の独立時に首都をコンスタンティノープル(現イスタンブール)からアンカラに移した。パキスタンはカラチからイスラマバードに、ブラジルはリオデジャネイロからブラジリアに、ナイジェリアの軍事政権は1991年にラゴスからアブジャに首都を移した。

最近で最も悪名高い例は2006年のミャンマー(ビルマ)かもしれない。当時の軍事政権はヤンゴン(ラングーン)の全ての省庁を、人のいない巨大都市にほとんど一夜で移転させた。ネピドーと名付けられた新首都は、当時の独裁者タン・シュエが占星術師の助言で選んだ場所に、何年もかけて極秘裏に建設が進められたといわれる。

これらの国の場合は、政府自体が民主的ではなかった。首都移転という大事業は、民主国家には容易にできないのかもしれない。韓国は2002年、ソウル南方の世宗特別自治市への首都移転を試みたが、憲法裁判所の違憲判決によって計画は頓挫し、一部政府機関の移転にとどまった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:アマゾン熱帯雨林は生き残れるか、「人工干

ワールド

アングル:欧州最大のギャンブル市場イタリア、税収増

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 6
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 10
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中