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インドネシア

インドネシア首都移転のあまりに甘い皮算用

2019年9月4日(水)18時00分
ジョシュア・キーティング

だが、途上国の政府が首都移転を実行したがる理由はほかにもある。ハーバード大学行政大学院の経済学者フィリペ・カンパンテらは、国内の最大都市が首都だと政府は世論の圧力を受けやすいという説を唱える。経済活動と文化とメディアが集中する最大都市には、野党勢力や反体制派が集まりやすいからだ。

カンパンテらは2012年の論文で「辺ぴな土地に首都を持つ国の政府運営に欠陥がある」と指摘した。指導者層は「不満を持つ市民の存在」によって緊張を強いられるものであり、「反政府の動きは首都に近いほうが効果がある」ためだ。

確かにパリの歴史や、ムバラク政権を倒したエジプトの首都カイロの例を考えてもそうだろう。いまシリア政府が持ちこたえている理由の1つは、内戦勃発前に人口が最も多かった都市が首都ダマスカスではなく、アレッポだったからかもしれない。

問題はあるにせよ、インドネシアは今も安定した民主国家と見なされている。支持率も非常に高いジョコには、汚職のイメージはない。しかし首都移転が、インドネシアにとってプラスになる可能性はやはり低い。

©2019 The Slate Group

<2019年9月10日号掲載>

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