最新記事

異常気象

5年前に海洋生態系に甚大な影響を及ぼした「海洋熱波」が再び発生

2019年9月13日(金)16時30分
松岡由希子

海洋熱波が発生している(NOAA)

<米国西海岸沖で2014年から2016年半ばにかけて発生した海洋熱波は、海洋生態系に甚大な影響を及ぼしたが、今夏、同様の兆候が見られ、今後が懸念されている......>

アラスカ州からカリフォルニア州南部までの米国西海岸沖で2014年から2016年半ばにかけて発生した海洋熱波「ブロブ」は、海洋生態系に甚大な影響を及ぼした。藻類がかつてない規模で異常発生し、数多くのカリフォルニアアシカがビーチで座礁した。

そして2019年夏、同じく米国西海岸沖で「ブロブ」と同様の新たな海洋熱波が発生し、アメリカ海洋大気庁(NOAA)では、これを「NEP19(北東太平洋海洋熱波2019)」と名付けて、注意深く観測している。

matuoka0912a.jpg(NOAA)

海面水温は、平均よりも摂氏2.8度以上高くなっている

「NEP19」は「ブロブ」の初期段階と似ている。「ブロブ」では、2014年から2015年にかけてのピーク時に、海面水温が平均よりも華氏7度(摂氏3.9度)上昇した。「NEP19」は、海面を冷やす風が弱まったことにより、2019年6月頃からアラスカ州からカリフォルニア州までの広範囲を覆うようになり、その規模は、過去40年で「ブロブ」に次いで2番目に大きい。

海面水温は、平均よりも華氏5度(摂氏2.8度)以上高くなっている。これまでは、海水が深層から表層に涌き上がる「湧昇」によって、深海からの冷たい水が「NEP19」の沿岸への到来を防いできたが、すでにワシントン州には「NEP19」が上陸したとみられ、「沿岸湧昇」が衰退する秋には、他の地域でも沿岸生態系に影響が及ぶおそれがあると懸念されている。

matuoka0913a.jpg

2015年の海洋熱波の影響で死んだと見られているアラスカのクジラ PHOTO BY PHILIP CHARLES

漁業資源にもたらす影響が懸念される

カリフォルニア州の海洋大気庁南西水産科学研究所(SWFSC)では、衛星データを使って太平洋の熱波を追跡・測定するシステムを開発し、「NEP19」が海洋生態系や漁業資源にもたらす影響について、漁業関係者らに情報を提供している。

海洋大気庁海洋漁業局のフランシスコ・ウェルナー博士は「『ブロブ』やこれに類似する海洋熱波の事象をみると、かつて想定外であったことが普通のことになりつつある」とし、「このような熱波がどのように進化し、どのようなことが予想されうるのか、一般の人々に向けて広く情報を提供していきたい」と述べている。

1280_6J4.jpg

Image from NOAA National Environmental Satellite, Data, and Information Service.

長期の気候変動との関連はまだはっきりしないが......

豪ウエスタンオーストラリア大学らの共同研究チームが2019年3月に発表した研究論文によると、この100年で地球の海水温が著しく上昇し、とりわけ太平洋、大西洋、インド洋で海洋熱波の発生頻度が高まり、海洋生態系を脅かしているという。

海洋大気庁南西水産科学研究所のネイト・マンチュア博士は英紙ガーディアンの取材に対して「この3ヶ月、海水温がやや高い状態が続いている。このような気象パターンと長期の気候変動との間に関連があるのかどうか明らかではないが、その可能性はあるだろう。まだ新しい分野でもあり、解明されていないことがまだ数多く残されている」とコメントしている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

見通し実現なら経済・物価の改善に応じ利上げと日銀総

ワールド

ハリス氏が退任後初の大規模演説、「人為的な経済危機

ビジネス

日経平均は6日続伸、日銀決定会合後の円安を好感

ワールド

韓国最高裁、李在明氏の無罪判決破棄 大統領選出馬資
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    フラワームーン、みずがめ座η流星群、数々の惑星...2…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中