最新記事

ミャンマー

ミャンマー民主化の華だったスーチー、今や中国共産党と「一帯一路」で蜜月に

2019年8月15日(木)10時27分

国家主導の開発

ミャンマーにおける中国の「ソフトパワー」作戦は広範囲にわたる。

NLDの広報担当者Myo Nyunt氏によれば、同党は2016年以降、少なくとも20回は代表団を中国に送っている。中国は招待する対象を、軍部系の野党やその他の政党、市民団体やメディアにも広げている。

取材に応じたNLD関係者によれば、中国はミャンマーからの視察団に対し、国家主導で抵抗を受けずにインフラ整備を進める手法を紹介しているという。また、訪中した複数の関係者によると、最高級の白酒がふんだんに振る舞われ、ぜいたくな食事も提供されたという。

Helen Aye Kyaw氏はNLD婦人部の一員として、今年6月に初めて中国を訪れた。中華全国婦女連合会の招待によるもので、共産党の幹部学校を見学し、農村部における貧困撲滅に向けた中国の取り組みを学んだという。

同氏によれば、参加者が病気になった場合に備えて中国人の医師らが付き添い、北京で買い物する際には480元が支給されたという。

こうした接待にもかかわらず、NLD指導部は、訪中に党員が影響を受けたということはない、重要な勉強の機会だったと話す。

NLDに所属する代表的な研究者、Myo Yan Naung Thein氏は「ミャンマーの政治家は愚かではない。中国の思いのままにはならない」と語る。

ロイターは中国外務省に、視察旅行について問い合わせた。同省は文書で回答し、NLDなどミャンマーの政党との関わりは、対等かつ「互いに内政不干渉」という立場で進めているとした。

「中国共産党は外国のモデルを『輸入』することもなければ、中国のモデルを『輸出』することもない。中国のやり方を『コピー』するよう他国に求めることもない」

「友人」を求めるミャンマー

中国は当初、スー・チー氏に対して懐疑的だった。長年、西側諸国から民主主義の旗手ともてはやされていたからだ。

「スー・チー氏が米国の手先のような存在にすぎないのか、彼女の思想やイデオロギーがどの程度『欧米化』されているのか、中国は知りたがっていた。まもなく、彼女の独立性が非常に高いことがわかった」と、NLD中央執行委員会のメンバー、Han Tha Myint氏は話す。

ロヒンギャ問題が発生して以降、スー・チー氏は、虐待疑惑(ミャンマーは否認している)への措置を求める国をほとんど訪問していない。

NLD広報担当者のMyo Nyunt氏は、「スー・チー氏はわが国が何を得られるかという基準で訪問先を選んでいる」と語る。「その国が独裁的か民主的かは関係ない。わが国は親密な友人を求めている」

専門家や外交関係者の中には、中国がミャンマーと西側諸国の関係悪化につけ込んでいるとの見方がある。

ヤンゴンに駐在する西側外交官の1人は、「中国は、自国が国連安保理に参加していることを利用して、大きな成果を引き出している。つまり、『一帯一路』だ」と語る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中