最新記事

コロンビア大学特別講義

「慰安婦」はいかに共通の記憶になったか、各国学生は何を知っているか

2019年8月6日(火)17時40分
キャロル・グラック(米コロンビア大学教授)

グラック教授 もちろんそうですね。慰安所というのは、あえて一般的に呼ぶならば、軍の売春宿のことです。当時、慰安所は軍にとっては珍しいものではなく、それぞれの国の軍隊が売春宿を持っていました。軍人たちは慰安所の存在をもちろん知っていましたし、それは戦争の一つの側面でした。では、軍人のほかにその存在を知っていたのは誰ですか。

マオ 歴史的には皮肉なことかもしれませんが、戦後、米軍が日本を占領していたときにも同じような施設があったと思います。もっと聞こえがいい名前に変えて......。

グラック教授 「余暇・娯楽協会」ですね(Recreation and Amusement Association。日本占領期、連合国軍による一般女性に対する性犯罪を防ぐために日本政府が設置した特殊慰安施設協会。「余暇・娯楽協会」の売春宿は設置から7ヵ月後にGHQによって廃止された)。

日本占領期の売春についても語れることは多くありますが、ここで重要なのは、軍のための売春宿は見慣れない存在ではなかったという点です。 戦後、慰安婦について知っていたのは、まずは慰安所を利用したことがある人間と、元慰安婦たち自身でした。しかしながら、彼らや彼女たちはそのことについてあまり語らないですね。なぜ語らないのでしょうか。

ニック 汚名を着せられるからでしょうか。

グラック教授 元慰安婦にとっては、汚名とトラウマが理由でしょうね。元慰安婦は家族の元に帰ったとしても、自分の身に起きたことについて語らない場合が多いです。ではなぜ、慰安婦の話は戦争の物語に組み込まれていなかったのか。戦争の物語では被害者の存在が重要視されるものです。原爆の被害者や国内で戦争を経験した人々の話は出てくるのに、なぜ慰安婦は登場しなかったのでしょうか。

※第2回に続く:韓国政府が無視していた慰安婦問題を顕在化させたのは「記憶の活動家」たち

※第3回はこちら:韓国と日本で「慰安婦問題」への政府の対応が変化していった理由


『戦争の記憶 コロンビア大学特別講義―学生との対話―』
 キャロル・グラック 著
 講談社現代新書

ニューズウィーク日本版 大森元貴「言葉の力」
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月15日号(7月8日発売)は「大森元貴『言葉の力』」特集。[ロングインタビュー]時代を映すアーティスト・大森元貴/[特別寄稿]羽生結弦がつづる「私はこの歌に救われた」


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

マクロスコープ:政府、少額貨物の消費免税廃止を検討

ワールド

ロシア外相、イラン核問題巡る紛争解決に向け支援再表

ビジネス

グーグルのAI要約、独立系出版社からEU独禁法の申

ビジネス

OPECプラス有志国、9月に55万バレル増産へ ゴ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 9
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 10
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 9
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 10
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中