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コロンビア大学特別講義

「慰安婦」はいかに共通の記憶になったか、各国学生は何を知っているか

2019年8月6日(火)17時40分
キャロル・グラック(米コロンビア大学教授)

グラック教授 ヒロミとジヒョン、二つの立場がありますが、両方とも国際政治に絡んだ問題ですね。ジヒョン、もう一つの意見は何ですか。

ジヒョン これは私個人の意見で、一般的な見方ではないのですが......。もちろん、日本も韓国もこの問題を政治的手段として利用しているところがあります。でも、それはある意味当たり前だと思います。政治家というのは常にそうするものなのですから。 一方で、この問題がなぜ一向に解決しないのかを考えたとき、これは別の次元でも扱わなければならないことだと思いました。つまり、慰安婦というのは、女性に対する残虐行為についての話であると。歴史認識や外交問題というより、ジェンダーの議論であると思うようになりました。

似たような残虐行為は、韓国人男性からベトナム人女性に対しても行われましたし、日本政府も日本国民に対して残虐行為を行いましたよね。慰安婦の問題は、ジェンダーや人権という、より大きなスケールで考えるべきだと思います。

グラック教授 国際関係上、政治家たちがこの問題を道具として利用しているという側面と、女性に対する残虐行為という側面があるということですね。これはとても重要な点で、そう考えているのはあなただけではないですよ。ほかに、慰安婦についての見解はありますか。

ダイスケ 事実として、それは過去に起きたことだと私も思います。そういう認識の上で、これまでにさまざまな議論に触れてきました。例えば、韓国人もベトナム人に対して同じことをした、だから......という議論。あとは、慰安所のようなところに連れていかれたのは実際には何人だったのか、という数の議論があります。

グラック教授 慰安婦の議論について、重要なポイントを指摘してくれました。南京事件でも似たような議論が聞かれます。両方のケースで、誰が誰に何をしたのか、それはなぜなのか、そして数の議論が出てきます。ですが重要なのは、ダイスケが言ってくれたように、こうした議論こそが共通の記憶をつくるのだということです。

多数の国の軍隊が売春宿を持っていた

グラック教授 では慰安婦がどのようにして共通の記憶になったのか、というプロセスの話に戻りたいと思います。また質問してみましょう。1945年、もしくは終戦直後に、人々が慰安婦について知っていたのはどんなことだったでしょうか。想像してみてください。そこでいう「人々」というのは誰を指すのかについても教えてください。

ニック 慰安婦のようなことは日本軍だけではなくほかの国の軍隊でもありましたし、東ヨーロッパでもひどいことが起きていました。日本と中国と韓国の人々は、こうしたことが起きていたと知ってはいても、戦後復興や冷戦、朝鮮戦争の過程などでその記憶を脇に追いやっていたのではないでしょうか。

グラック教授 脇に追いやるという場合には、まずそれを問題視していることになりますが、当時はあえて無視していたというよりは公然の事実だったのでしょう。 慰安所について確実に知っていた人というのは誰でしょうか。

ニック 軍人たちです。

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