最新記事

酷暑

今より格段に暑い夏がくる── 今後18カ月の温暖化対策が人類の命運を左右

2019年8月6日(火)17時01分

革命か崩壊か

外交の駆け引きが激しさを増すなか、最新の研究が交渉担当者の懸念を増幅させている。

米国の気候変動学者で、ペンシルバニア州立大地球システム科学センター所長のマイケル・マン氏は、IPCCは産業革命以前から現在までの気温上昇幅を過小評価している可能性があると指摘する。IPCCの想定より、大幅に排出ガスが削減される必要があるという。

「われわれの研究は、気温上昇を1.5度以内に抑えることを目指すなら、今後燃やせる化石燃料の量はIPCCの示唆よりも最大4割程度少ないことを示している」と、マン氏は言う。

マン氏は各国政府に対し、米国が第2次世界大戦中に戦時生産体制を敷いたのと同レベルの緊急性で、再生可能エネルギーへの移行に取り組むよう促している。

だがこれまでのところ、それに応じた主要経済国は1つもない。

2050年までに地球温暖化ガスの排出をゼロにするとの目標を6月に打ち出し、パリ協定を強力に後押しした英国は、現在では欧州連合(EU)離脱問題に労力を奪われ、「気候戦時体制」どころではない。

フランスとドイツが、EUでも同様の削減目標を採用しようと動いたが、ポーランドやチェコ、ハンガリーの反対を受け、ブリュッセルで行われたEU首脳会議で文書の「注釈」に格下げされた。

トランプ米大統領は、依然として世界第2の排出国である米国をパリ協定から全面離脱させる方針た。

気候の安定には地球上の全ての生命が依存しているが、それを巡る国際協力の見通しの暗さを受けて、慣れ親しんだ世界の「崩壊」に備え始めた人たちもいる。

「化石燃料を捨てて地球上の集団としての人間の生活を劇的に変えるか、さもなくば、より可能性が高い展開として、気候変動が世界的な化石燃料資本主義文明に終わりをもたらすか、だ」

MITテクノロジーレビュー誌への4月の寄稿で、文筆家ロイ・スクラントンはこう記した。

「革命か崩壊か──。いずれにしても、われわれが慣れ親しんだ良き生活は、もはや続かないだろう」

(翻訳:山口香子、編集:久保信博)

Matthew Green

[ロンドン ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

20240730issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年7月30日号(7月23日発売)は「トランプ暗殺未遂」特集。前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中