最新記事

アメリカ政治

米国「勝ち組」都市が示す格差社会の分断 トランプ人気を生む一因に

2019年7月31日(水)11時20分

2008年の金融危機のさなかにコンベンションセンター建設という賭けに出たことが、今のナッシュビルに好景気をもたらしている。写真は米テネシー州ナッシュビルの繁華街。2019年1月に撮影(2019年 ロイター/Howard Schneider)

2008年に起きたリーマン・ショックで世界の経済、投資活動が委縮し続ける中、米国テネシー州の州都ナッシュビル市当局は大きな賭けに踏み切った。6億ドルを投じた新たなコンベンションセンターの建設である。

それから10年余り。センターの建設は同市に新たな大型投資を呼び込み、この付近には33階建てのマリオット・ホテルを含め、合計で数千室規模に達するホテル群が出来上がった。さらに、アマゾンが5000人規模の物流拠点を設けることを発表、ナッシュビルへの投資の魅力は一段と確かなものになった。

破滅的なリセッションを逆手にとり、急成長を実現した米国内の「勝ち組」都市。一方、他の多くの地方都市は雇用や投資の縮小に見舞われ、米国内の地域間格差は一段と深まりつつある。そして、こうした断層の存在は、成長の遅い地域から大きな支持を得ることによって大統領の座を得たトランプ氏の人気を生む一因ともなった。

「『スーパースター』都市は、他の地域にあまりにも大きな差をつけている」とマサチューセッツ工科大学(MIT)のエコノミスト、サイモン・ジョンソン氏は語る。同氏だけでなく、米連邦準備制度(FRB)当局者や他のエコノミストたちも、出遅れた地域の経済が回復せず、格差が埋まらない場合に何が起きるか、懸念を深めている。

上位20都市に成長の恩恵

米国経済は今月で10年を超える持続的な改善が続き、史上最長の景気拡大となった。失業率は50年ぶりの低水準に近く、家計所得は上昇しており、景気循環のなかでも、通常であれば賃金が最も大きく上昇する時期を迎えている。

だが、その成長の恩恵が広く行き渡ることはなく、きわめて不均等に分配されている実態が、連邦政府のデータを分析したロイターの調査でわかった。

2010年から17年にかけて、米国全体の雇用の中で378都市がどのようなシェアを占めてきたかを示すランキングを見ると、新規雇用の40%が上位20都市で生み出されている。賃金上昇に占めるシェアも同様だ。

これら上位20都市は、全米の人口の約4分の1しか占めておらず、成長ペースの早い南部・沿岸部の州に集中している。北東部の州の都市は1つも含まれておらず、内陸の「ラストベルト地帯」で上位20都市に入っているのは、ミシガン州グランドラピッズ、回復を見せているデトロイトの2都市だけだ。

これは大統領選におけるトランプ氏の得票分布に近い。2012年にはオバマ大統領が勝ち、2016年にはトランプ氏の勝利となった221のカウンティ(郡)のうち、雇用シェアの上位に入った都市圏に含まれている郡は3つしかない。そして、62の郡が全国の雇用に占めるシェアが低下した都市圏に含まれている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

フォード、第2四半期利益が予想上回る ハイブリッド

ワールド

バイデン氏陣営、選挙戦でTikTok使用継続する方

ワールド

スペイン首相が辞任の可能性示唆、妻の汚職疑惑巡り裁

ビジネス

米国株式市場=まちまち、好業績に期待 利回り上昇は
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中