最新記事

日本政治

山本太郎現象とこぼれ落ちた人々

The Taro Yamamoto Phenomenon

2019年7月19日(金)15時10分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

山本の演説に多くの人が足を止めるのはなぜなのか つのだよしお/AFLO

<反緊縮・反エリートを掲げる「れいわ新選組」は、日本に左派ポピュリズムを根付かせるのか>

7月4日午前10時過ぎ――。参議院議員選挙が公示されたこの日、通勤の混雑が一段落した新宿駅はもう1つのラッシュアワーに見舞われていた。立憲民主党の枝野幸男代表が、躍進を果たした前回17年の衆議院議員選挙と同じ東南口でマイクを握り、西口では共産党の志位和夫党委員長が東京選挙区での議席確保を目指し声を張り上げる。そして午前11時、西口地下では山本太郎率いる政治団体「れいわ新選組」も街頭演説の準備をしていた。カメラの数は既成政党のそれと比べても大差ない。

政治家というより、ロックスター然としたデニムジャケット、白のTシャツ、細身のパンツにスニーカーといういでたちの山本が登場すると、集まった支援者は大きな拍手を送った。

「今の政治は皆さんへの裏切りだ。20年以上続くデフレ、異常ですよ。物価が下がり続け、消費が失われ、投資が失われ、需要が失われ続け、国が衰退している」

「生活が苦しいのを、あなたのせいにされていませんか? 努力が足りなかったからじゃないか? 違いますよ。間違った自民党の経済政策のせいですよ。消費税は増税じゃない、腰が引けた野党が言う凍結でもない。減税、ゼロしかない」

彼は緊縮財政を徹底的に批判することに多くの時間を割いた。「上」から金を取り、もっと「下」によこせとばかりに時に叫び、低い壇上から「あなた」に呼び掛ける。テレビで活躍していた元俳優だけあって、地下道を舞台に変えるすべは熟知している。熱狂的な聴衆が彼を取り囲み、開始から30分を過ぎる頃には、後列に仕事中とおぼしきスーツ姿の若いサラリーマンも足を止めてじっと山本の言葉を聞いていた。

夕方、場所を秋葉原に変えての演説ではまだ知名度が低い「れいわ」の候補者をリングアナ風に紹介するなど場を盛り上げ、選挙に不慣れな候補者のサポートに徹する姿も見せていた。

参院選を前に、山本の動きは大手メディアで異例ともいえる注目を集めていた。政党要件を満たしていない「政治団体」であり、代表の山本は党首討論などには呼ばれない。露出は少ないのに、なぜ注目されたのか。

【関連記事】「れいわ新選組」報道を妨げる「数量公平」という呪縛──公正か、忖度はあるのか

枝野との決定的な違い

理由は資金面の動きと選挙戦略だ。彼が4月に「れいわ新選組」の立ち上げを宣言して以降、公示日前日までに集めた寄付は2億3000万円を超えた。大手メディアもこの動きを分析する記事を出した。さらに比例で優先的に当選できる「特定枠」に、自力で体を動かすことが困難なALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の舩後靖彦ら障害者を擁立したことも話題に。自身も全国比例から出馬するが、比例順位は3番目と、あえて高いハードルも設けた。これが安倍政権だけでなく、権威に立ち向かう姿勢を演出する効果を持った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中